明日は”はろうぃん”という西の国のお祭りらしい。

仮装した子供が大人に”お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ”と可愛く強請って家々を回る行事という。

先ほど、殿から全部将にお達しがあった。

明日は全員仮装して、殿にお菓子を貰い来るようにとのことだった。

「皆の仮装を楽しみにしているぞ!」

そう言って、目を輝かせていた殿の期待を裏切れるものなど、この国には存在しないだろう。

明日は華やかな一日になりそうだ。

楽しそうに笑う殿の顔を思い浮かべながら、程普はいそいそと仮装の準備に取り掛かった。




”はろうぃん”当日の朝、程普はイの一番に孫堅の下を訪れた。

骸骨をあしらった黒い眼帯に、粋な帽子を斜めに被り、海賊に仮装済みだ。

「おっ、早いな。見ろよ、全員分の菓子の準備は万端だ。ちゃんと数も数えてあるぞ〜」

菓子が入っているらしい大きな袋を抱えた殿は得意気に微笑んでいる。

だが、量が量ゆえ・・・・とても重そうだった。

「殿・・・・今日一日中、その袋を持ち歩くおつもりですか?」

「もちろんだ。いつ誰が来るか分からないだろう?」

「では、その袋はわしが預かりますぞ。今日一日、その袋を持って殿の供を致しましょう。」

そう言って、孫堅の腕から袋を奪い取ると、肩に担いだ。

やはり、全武将分入っているだけあって、ずっしり重かった。

「あっ・・・・実は、予想以上に重くて少し困ってたんだ。」

「でしょうな。では、行きますぞ。」

こうして、程普は今日一日、孫堅の供をすることとなった。




殿の下には朝から途切れることなく様々な衣装に身を包んだ武将達が訪れていた。

仮装の出来栄えを殿に褒められて頬を染めて喜ぶ者あり、

快心の仮装で殿を感嘆させる者あり、

似合わないことこの上ない格好で殿の爆笑を誘う者あり。

殿の周囲は笑い声が絶えず、皆とても楽しそうだ。

そして、何より殿が一番楽しまれているようで、微笑ましい光景だ。

そのお姿を一日中見守っていられることができ、わしもまた幸せだ。

今日という日が終わってしまうのは惜しいが、じきに日が傾く。

袋の中身も朝とは比較にならないほど軽くなっていた。


「あと残り一人だな。・・・・・そうだ、庭に散歩に出るぞ!」

空が茜色に染まる頃、殿に誘われて庭に出た。

今日一日の興奮の醒めない殿はいつも以上に饒舌で、相槌のみのわしに文句も言わずに話し続けていた。

「なぁ、お前は今日一日楽しめたのか?」

だが、いきなり質問を投げかけられ、咄嗟に答えに詰まってしまった。

「えっ・・・・・殿?」

「一日中引っ張り回してしまったから、少々気になったんだ。」

どうなんだ?と再び問われ、今日一日を思い返す。

「似合わない黄蓋の魔女と、はまり役だった韓当の魔法使いの組み合わせに、爆笑していらした殿は微笑ましかったですな。」

「・・・・・・・」

「周泰の自前の傷を利用した”ふらんけん・しゅたいん”の出来に驚いていらした殿も愛らしかったですぞ。」

「だから・・・・そうではなくてだなっ」

「ああ、黒猫姿の周瑜に鼻の下を伸ばしていらした殿も、見ていて楽しかったですが。」

「お前は、何を見てたんだ!?」

「もちろん、楽しんでおられる殿のお姿を一日中堪能させていただきました。」

あえて正直に答えると、ゆっくりと歩き続けていた殿がピタリと立ち止まった。

機嫌を損ねてしまったのだろうか?

辺りは樹が多く、庭のだいぶ奥まった位置まで歩いてきたようで人気は全く無かった。

「お前なりに楽しんだようで安心したが・・・・・あと、残り1人なんだ。」

「そうえいば、先ほども・・・・ですがわしの記憶では全員来たと思いますが?」

「ならば、袋の中を見てみろよ。」

殿から預かっていた袋の中を覗くと、菓子が一つだけ残っていた。

そうえいば、数を数えてあるとおっしゃっていたから、まだ一人来ていない者がいるのだろう。

だが、誰なのか見当が付かなかった。殿は誰なのか分かっていらっしゃるのだろうか?

「あの・・・残りは誰ですか?」

「っ・・・・・・・残りは・・・・・お前だろ。これは、お前の分だ!!」

言われて初めて気が付いた、はじめに荷物持ちを買って出たため、自分が菓子を強請るのをすっかり忘れていた。

それで、先ほどから思い出させようと”残り一人なんだ”と繰り返されていたのだろう。

ああっ、この徳謀一生の不覚!!

「遅くなって申し訳ございません。殿・・・お菓子を頂けないと、悪戯をしてしまいますぞ。」

もう遅いかもしれないと後悔しながら、殿を見つめた。

殿は、袋の中から菓子を取り出すと、包みを破り捨ててしまう。

そして、そのまま菓子は殿の口の中に放り込まれてしまった。

ムシャムシャと咀嚼され行くのを呆然と見つめる。

すこし拗ねたような表情は、それはそれで素敵だが・・・・

困った。どうすれば、殿に許していただけるのだろうか?

「殿・・・・・・」

菓子が殿の喉に飲み込まれるのを眺めながら、恐る恐る呼びかけた。

「ああ、すまん。俺も食べてみたくなってな。だが、困ったな。」

「えっ?」

「お前にやる菓子がなくなってしまったぞ。ああ、困った。困った。」

わざとらしく、”困った”と繰り返されている。

ああ、殿は怒っていらっしゃるのではなく・・・・・・・・

「では悪戯を、してしまいますぞ?」

丁度人気がないのを良いことに、殿に手を伸ばした。

いや・・・丁度、人気のない場所なのではなく・・・・




重ね合わせた殿の唇には、確信犯的な笑みが浮かんでいた。









程普×孫堅は、基本パパの誘い受け?ですねぇ〜
うっかり徳謀、一番イイ思いをする・・・・・・黄蓋や韓当にばれたら、泣いて悔しがりそうです。












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