周泰は、庭に掲げられている笹を見上げていた。
願いを書いた短冊を結ぶと、その願いが叶うらしい。
先ほど皆で願い事を書いて、短冊を結んだ。
何枚でも好きなだけ書いていいんだぞという孫堅の言葉に、多い者は5〜6枚も書いていた。
だが、周泰はまだ一枚すら、願いを書けていなかった。
いったい、何を願えばいいのか分からない。
人目に晒されるということを鑑みると、下手なことを書くわけにもいかないし・・・・
せめて参考になればと、周泰は近くの短冊を手に取った。
「孫呉の繁栄」
流麗な文字でそう記されていた。なるほど、望みとしては模範的にみえる。
だが、全く同じ事を書いても味気ない、他に参考になりそうなものはと隣の短冊にも手を伸ばす。
「殿のご多幸」
意外と、まっとうな望みが多いのだなと次々に願いを覗き見る。
「殿のご健勝」
「伝国の玉璽(R孫堅の戦器)の早急な入手」
「殿と共に出陣する機会を切に望む」
「殿と心中希望」
「殿と二人天啓で敵陣に切り込みたい」
・・・・・・・・・
目立つ場所から離れるごとに、徐々に願い事の雰囲気が変わっている気がする。
止めた方がいいと頭の隅では分かっていながら、好奇心を押さえることができずに、
笹の葉を掻き分け、奥に隠れるように結ばれている短冊についに手を伸ばしてしまった。
そこにあったのは、同じ筆跡の5枚の短冊で、
「確実に文台さまの再起を擁護できるようになりたい」
「文台さまを救出できるだけの体格が欲しい」
「文台さまが早く私の魅力に気付いてくださいますように」
「日々、この身を焦がす欲望の成就v」
「ああ・・文台さまに触れたい、感じたい、文台さまを・・・・・・」
最後の一枚は、押さえ切れぬ感情に文字が震えていた。
・・・・・・・こっ、これは、やはり君理殿の手か!?
いくら奥に結んでいるとはいえ、大殿の目に触れたらどうするつもりなのか。
迸る欲望を示すように、歪んだ文字が更なる恐怖を誘う。
いや、私は何も見なかった。何も見ていない。私は何も・・・・
必死に自己暗示を掛けていた周泰は、背後から声を掛けられギクリと身体を強張らせた。
咄嗟に短冊を奥へと戻し、振り返る。
「幼平??どうした?」
紫色の瞳に心配気に覗き込まれ、緊張に鼓動が速まる。
まさか、君理殿の短冊が目に触れてしまったのではと、背に嫌な汗が伝った。
「あの・・・願い事が思いつかなかったので・・・」
シドロモドロな周泰に、孫堅はニコリと笑むと、元気付けるようにポンと肩に触れた。
「何でもいいのだぞ。人目に触れたくなければ、見えにくい場所に結べばよい。」
このようにな、と孫堅が示したのは、先ほど周泰が目にした朱治の短冊で、
大それた部下の望みにも不快を示さない様子に、驚きを隠せなかった。
目を瞠り固まる周泰に、孫堅は微笑を送ると、順に短冊を手に取り眺め始めた。
「ふふっ。俺は皆に愛されているなぁ〜」
その言葉に、周泰は孫堅の触れている短冊を覗き見た。
その短冊には、「殿の望みの成就」と書かれている。
短冊をみつめる孫堅の瞳がとても優しい。
周泰の目の前で、孫堅が新しい短冊を手に取り、サラサラと願いを書いた。
そして、先ほどの短冊の隣に結ばれた孫堅の短冊には、
「皆の望みの成就」と書かれていた。
屋敷に戻る孫堅の背を見送りながら、周泰の中にも自然に望みが沸いてくる。
そして、目立たぬ位置にこっそりと結んだ周泰の短冊には「大殿のように、大きな漢になりたい」とあった。
孫堅&周泰で、七夕ネタ第二段です!!
誰がどの短冊を書いたのかは、ご想像にお任せ致します。