「叩き潰せ」
一気に攻めあがり、敵城壁に辿り着いたところで、劉備の英傑号令が掛かった。
「蹴散らせ」
と、対抗して殿の超絶号令が聞こえ、既に攻城準備中だった殿と若と黄蓋が赤いオーラに包まれた。
後方で援護射撃中だったワシと周瑜は、計略範囲には入っていない。
戦の喧騒を貫き心に響く殿の号令を、間近で感じられないのは残念至極。
だが、少しでもお役に立てればと、攻城を邪魔する敵に狙いを定める。
続々と敵が撤退し、殿の城攻めの声が戦場に響いた。
低く落ち着きのある殿の声音。
その冷静さを裏切る、威力に魅せられる。
殿の姿に一瞬意識を奪われかけたが、
「程公、一度退きましょう。」
と、周瑜に邪魔をされた。
はっと戦場に意識を戻すと、韓当を撃破した諸葛セン・関銀ペイ・夏候月姫が逆端から自城に向かって侵攻しようとしている。
韓当が3枚も敵を引付けていたとは驚きだが、その動きに気付けなかったことが悔しい。
殿は敵の動きも見越して、ワシと周瑜を計略に入れずに残したはずだ。
にも関わらず、この若造に遅れを取るとは不覚っ。
「分かっておるわ。さっさと退くぞ!!」
と、八つ当たり気味に返すと最短距離で自城を目指した。
周瑜の申し訳なさそうな表情が癇に障ったが、今は言い争っている暇はない。
殿や若が稼いだリードを死守しなければ。
程普は、攻城準備に入った槍兵に率先して乱戦を仕掛けに行く。
「後は任せたぞ・・・・・」
と遠く敵城前から届いた殿の声に力が漲った。
天啓中の孫堅と孫策が稼いだリードを守りきり、この戦は勝利を収めることが出来た。
孫堅は、皆の働きのおかげだなと笑みを浮かべていたが、
程普は自分が十分な働きをしたとは思えなかった。
しかし、心の内を悟られたくなくて、勝利に対する喜びを前面に押し出してみせる。
「見事な勝利でしたな、殿!!」
「ああ、次の戦もこの勢いに乗っていくぞ。皆の者、天命は我等にある!!」
「どこまでも、殿について参ります。」
孫堅を中心にして城内が勝利に沸き上がる。
孫堅の鼓舞で、”今日は負ける気がしない”と感じる勢いが生まれていた。
歓声を聞きいていると、程普の気持ちも浮上していく。
ワシ個人の戦果など、戦の勝敗に比べたら取るに足らん小事だ。
どのような形でも、殿のお役に立てれば本望なはず。
もっと・・もっと・・・とつい己の力以上の高望みをしてしまうが、
その向上心すらも、悪いことではない。
吹っ切るように頭を振り、顔を上げると、殿と目が合った気がした。
一瞬の出来事だが、皆に向けている、不安を欠片も感じさせぬ強気な笑みとは違う表情が浮かんでいた。
垣間見たそれは、柔らかな微笑みで・・・・・
心の内を見透かされたようでドキリとした。
つづきへ