「いい加減になさいませ!!殿。」

周瑜が孫堅の執務室の前まで来た時、中から孫堅を諌める程普の声が聞こえてきた。

孫堅に呼ばれたからここまで来たのであるが、声を掛けていいかどうか躊躇した。

孫堅は、程普に向かって不満げに口をとがらせ、ぶつぶつと文句を言っているようだった。

孫堅の子供のように拗ねた表情というものを見たのは初めてで、視線が釘付けになった。

その拗ねた表情の中には、程普に対する甘えが垣間見えていて、

父親のような年代の相手に、あまり感じることがないだろう形容詞が頭に浮かぶ。

”可愛らしい”と。

そんなことを考えながら、入り口近くで立ちつくしていると、不意に孫堅がこちらを向いた。

「公瑾!来ていたのか?どうしたのだ?ぼ〜っと突っ立って。」

「あっ・・すみません。可愛らしい文台様の表情に、少々驚いておりました。」

先ほどまで考えていたことを、そのまま口にすると、孫堅の顔が一気に赤くなった。

「なっ、公瑾!!何を言うんだ!?」

まずいことを言ったかなと、孫堅の背後を窺うと、程普が慌てる孫堅の姿を口元に笑みを浮かべて見守っていた。

う〜ん。ここは、出直した方が良さそうだ。

「程公に甘える文台様は、可愛らしですね。また、出直します。」

周瑜は、孫堅と程普に向けて、にこりと笑みを浮かべると、その場を後にした。



一方、孫堅は立ち去る周瑜の後ろ姿を呆然と見送っていた。

嘘だろう?公瑾に・・・あの公瑾に、2度も”可愛い”と言われてしまった。

なぜだか、そのことが無性に恥ずかしい。

顔がすごく熱い。きっと、真っ赤に染まっていることだろう。

程普などに、”可愛い”と言われたことは幾度かある。

それが、例え性交の最中だったとしても、ここまで羞恥心でいたたまれなくなることはなかった。

しかし、自分の息子と同じ年の若者で、

とびきり美形で、俺から見たら”可愛いのはお前の方だろう”と言いたい相手に、

ものっすごく、さらりと言われてしまったんだ。

揶揄したのではなく、本当にそう感じたのだと言わんばかりにだ。

うわぁああ〜。こんな事実、絶対に平常心で受け止められないっ。

羞恥心に身悶えていた孫堅は、バッと顔を上げると、未だ赤く染まったままの顔で程普を睨み上げた。

「お前のせいだっ」

「そうですね。ワシとしては嬉しい限りですが。」

責任転嫁したつもりが、程普といたから周瑜に”可愛い”と評される表情を晒したと認めたことになったと気付く。

ニヤニヤと嬉しそうに笑う程普が、癪に障る。

「うぅっ〜〜〜」

「可愛いですよ、殿。」

嫌みなまでに、優しく程普が頬を撫でてくる。

もう、何か言い返すのすら億劫で、孫堅は黙って机に突っ伏した。
















なんか、どう考えても自分よりも可愛い相手で、自分も常日頃からその相手のことを可愛いなぁ〜とか思っていたのに、
逆にその子から「可愛いですね。」とか言われてしまうと、
他の人から言われるよりも、ものっすごい恥ずかしいのではないかと。

最初、太子享に「可愛い」といわれてしまった周瑜で妄想してたのですが、
周瑜に「可愛い」といわれてしまった孫堅でもしっくりくるのではないかと。








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