事の発端は、戦闘中の出来事だった。

周瑜は伏兵中に、同じく伏兵状態の曹操と遭遇した。

その時に、うっかり相手の興味を引いてしまったらしい。

十数日前、曹操から書状が来た。

国境付近で花見の宴を催すから、来て欲しいという誘いだった。

望みが叶わぬならば、酔った勢いで国境を踏み越えてしまうかもしれないとの脅し文句が添えられていた。

戦の火種になるよりは、誘いに応じた方が得策だと孫堅を説得した。

韓当と行動を共にすることと、孫堅の書状を携えていくことを条件に許可が下りた。

知っているのは、孫堅と韓当の2人だけ。

曹操が国境付近に陣を張ったとの情報を掴んだから、偵察に行くとの建前で出立した。

孫策に、疑いを抱かせるようなことはなかったはず。

孫堅からも、孫策にも他の者にも知られた様子はないと聞いていたから。

今、偵察から帰って来たところだと、何事もなかったかの様に孫策の元を訪れた。

だが、話しているうちに次第に孫策の機嫌が下降していき、

「いい加減にしろよ。公瑾!!俺は、何時まで騙された振りをしてやればいいんだ!!」

と孫策の怒りが爆発した。

手近な卓がなぎ倒され、派手な破壊音がした。

「伯符・・・ごめん。」

「親父には言えて、俺には言えないってどういうことだ?」

「それは・・・心配掛けたくなくて・・・」

「嘘を付くなよ。俺に言わずに済まそうとしたのは、俺に言えないようなことがあったからだろ。」

「それは、違う。ちゃんと、話すから。」

孫策へと歩み寄ろうとしたが、フッと眩暈がし足を止めた。

「ふ〜ん。そういえば、顔色が悪いな。寝る間も惜しんで帰路を急ぎでもしたか?」

「あっ、これは・・・・」

「そこまでして、一日でも長く奴と共に過ごしたかったのか?」

「そんな・・・違う、私はただ、早く伯符の顔がみたくて。」

孫策の誤解を解きたいのに、上手く頭が回らない。

何か言えば言うほど、孫策の怒りを買っているような気がする。

「くそっ。今は何を聞いても嘘に聞こえちまう。もういい。出て行けよ。」

「そんな・・・待ってくれ。」

「うるさい!!出て行けと言ったのが聞こえなかったのか!!」

足元で何かが割れる音を聞き、孫策に物を投げつけられたのだと分かった。

取り付く島のない孫策の態度に、どうしていいのか分からない。

途方に暮れていたところに、周泰の助け舟が入った。




「ありがとう。幼平。止めに入ってくれて助かったよ。」

事の経緯を話し終わった周瑜に柔らかな笑みが浮かんだ。

「あと、聞いてくれてありがとう。少し、すっきり・・・した・・・かな」

「お役に立てたなら、光栄です。」

落ち着いて、眠気が襲ってきたのか、周瑜の語尾が不明瞭に揺れた。

ああ、もう大丈夫そうだと安堵すると共に、もう少し甘え欲しかったと残念な気もする。

「おやすみなさい。公瑾殿。起きたらきっと事態は好転していますから。」

「ああ。そうだな・・・・」

しばらく周瑜を見守っていると、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。

安心して立ち去ろうとした時に、周瑜が流す涙に気づいた。

拭うために手を伸ばす。

「伯符・・・・・」

だが、周瑜の呟きに周泰の手が止まった。

触れてはいけないような気がして、ゆっくりと寝台から離れる。

何故か、とてつもない切なさが周泰を襲った。

思いを断ち切るように部屋を出て、扉を背にすると、ため息が零れた。










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距離感とかについては・・・間違っても中国の広大な大地を想像しないでください。
思いっきり、適当です。
だって、単位が月とかになると都合が悪いので。









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