祖茂の手がゆっくりと孫堅へと伸びた。
戸惑いがちに頬に触れる。
「祖茂・・・・・」
促すように孫堅が呼ぶと、祖茂の指が孫堅の唇をなぞる。
ゆっくりと唇が重なった。
口付けを繰り返しながら、祖茂は孫堅の夜着を滑り落とし、直接肌に触れた。
「ああっ・・・決して、許されることではないのに・・・・もう、止める術を知りません。」
「そんな術は、要らぬ。」
孫堅に魅惑的な笑みが浮かぶ。
祖茂は、孫堅に誘われるまま、腕の中に愛しい存在を閉じ込めた。
祖茂の手が唇が孫堅の肌を辿る。
祖茂により紡ぎ出される快感に身を委ねた。
だが目を閉じた瞬間、孫堅の背筋にゾクリと恐怖心が走り抜けた。
熱を持つ体が取り残されたように、触れる相手は冷たいままで。
得体の知れないモノと交わっているような、感覚に襲われた。
「殿?大丈夫ですか?」
聞こえてきた祖茂の声に、我に返って目を開く。
心配に染まった祖茂の顔を認め、ほっと安堵した。
相手は祖茂だ。何を恐れることがあるのかと自分自身に言い聞かせる。
「何でもない。それより、もっと・・・俺を呼べ。」
その姿を視界におさめ、声を聞いていないと不安で、そう命じた。
「殿っ・・・・愛しております。」
「知っていたぞ。」
「ああっ・・・殿ぉ・・・お許しください。」
拭い切れない不安を押し殺し、孫堅は最初で最後の祖茂との交わりに溺れた。
最後まで孫堅を呼ぶ声が途切れることはなく、満ち足りた表情で孫堅は眠りに落ちていった。
祖茂は孫堅の寝顔を見つめると、ふわりと唇に接吻を送った。
そして、最後の力を振り絞り床から這い出す。
だが、数歩進んだところで力尽き、ドサリと倒れ伏した。
ぼんやりと霞みゆく視界で孫堅へと手を伸ばす。
「あぁ、殿、愛しておりました。そして、申し訳・・ございま・・・せん。」
東の空がしらみ始めると共に、祖茂の瞳から完全に光が失われた。
がっしゃぁあ〜ん!!
間近で響いた物音に、孫堅は目を覚ました。
物音の発生源に目を向けると、呆然と立ち尽くす程普がいた。
足元には、水差しだったと思われる破片が散らばっている。
「何事だ?」
「とっ・・・殿!?あれを・・・・・」
程普の視線の先を見ると、そこには祖茂の骸があった。
傷だらけの無残な姿で転がっている。
何かを求めるように伸びた腕も、すでに光を失ったはず目も、孫堅へと向かっていた。
「ま、まさか!!祖茂っ・・・うっ・・ぁ・・」
慌てて体を起こした孫堅は、体の奥に鈍い痛みを感じた。
一気に昨夜の記憶が蘇る。
確かめるように、自分の体を見下ろした孫堅は、その惨状に息を呑んだ。
床の中にも孫堅の夜着にも至る所に、血が付着していた。
まるで、祖茂の骸を抱いて寝ていたような。
「殿・・・いったい何があったのですか?」
程普に詰め寄られ、はっと我に返る。
何があったのか、何をしたのか理解してはいたが、言葉にするのは憚られる。
愛の囁き以上に耳に残っている謝罪の意味がやっと分かる。
でも、後悔はしていない。
孫堅は、探るような程普の視線から逃れるように目を逸らした。
「聞くな。俺は、大丈夫だ。」
「殿・・・・・・・」
まだ何か言いたげな程普を遮り、努めて冷静な声で命じた。
「祖茂の骸を丁重に弔ってやれ。だが、ここで発見したことは内密にな。」
「承知いたしました。」
肯いた後の程普の行動は迅速で、次々と証拠隠滅が進んでいく。
だが、骸を運ぶのには準備が必要で、程普が一度出て行った。
孫堅は、程普の気配が遠ざかるのを確認すると、ゆっくり祖茂へと近づいた。
「良くぞ戻った。」
そう呟くと、祖茂に最後の口付けを送った。
すみません。うっかりホラーっぽくなってしまいました。