残り8カウント。

攻城ゲージは、このいままいけば僅差ではあるが自軍の勝ち。

敵方は、残った士気を英傑号令につぎ込んで、最後の一斉攻撃に出た。

味方は、全隊が自城前に展開し、残存士気は7。

完全に天啓のターンである。

戦闘の終焉を飾る華。

孫堅と共に見る、この世の幻。

この瞬間を共有するために、戦っているといっても過言ではない程の至上の快楽がすぐそこに!!

ギリギリまで敵を引きつけての全員天啓を目前にして、

程普・黄蓋・韓当・祖茂は孫堅の号令の範囲に展開していた筈なのだが・・・・・

カツン

っと嫌な音がし、その音とかぶるように「蹴散らせ」と、孫堅の檄が飛んだ。

そして、天啓の幻の範囲から僅かに外れた祖茂を除いて、

孫堅・程普・黄蓋・韓当が赤いオーラを身に纏い、その力を爆発させた。



・・・・・・・・嘘だ・・・誰か嘘だと言ってくれ。

祖茂は、自分だけが号令から弾かれてしまった事実を認識し、しばし呆然としてしまう。

祖茂がいる側を手薄と見てとった敵が群がってくる。

完全に足が止まっていた祖茂が敵に押し包まれようとした時、横から孫堅が割って入った。

「呆けている場合か!!絶対に乱戦するなよ、祖茂。残り1カウントはお前に任せた。」

「と、殿っ、申し訳・・・・」

「いいから、退け。」

祖茂は、孫堅が作った退路を利用し、一度程普の後ろに退き体勢を立て直した。

冷静になると、先ほどの孫堅の指示がストンと自分の中に落ちてくる。

天啓の幻の効果時間は7カウント。

この計略の威力を持ってすれば、1カウント程を残して撤退しても、問題ないだけの立ち周りは容易だ。

だが、漏れてしまったからには、残り1カウントを補うため、今はなるべく兵力を減らさずに立ちまわるのが使命だ。

祖茂は、孫堅と乱戦している敵に慎重に突撃を繰り返した。

そして、戦闘終了まで1カウントを残したところで、力を出し尽くした男達の撤退の声が戦場に響く。

「後は任せた、息子たちよ」「無念」「あと少しのところで」「がたがきたか」

その時、戦場に残っていたのは、祖茂と攻城エリア内に到達していない敵1部隊だけ。

結局、残り1カウントでも祖茂の出番はなく、その戦闘が終了した。



祖茂が少し遅れて城内に戻ると、撤退した孫堅・程普・黄蓋・韓当が寝ていた。

その息は荒く、滝のように汗が流れ、身体から湯気が立っている。

孫堅の号令は見違える程の底力を発揮することができる。

しかし、その代償は大きく、効果後は例え兵力が残っていても撤退必死なほど消耗する。

それぞれに付いた兵士が、額を濡れた布で冷やし、扇で風を送り身体の火照りを冷やそうと勤めていた。

祖茂は孫堅を看病している兵士に近づくと、その位置を代わった。

孫堅の額に置かれた布は既に温くなっている。

温くなった布を再度水に浸し、その間に乾いた布で孫堅の汗を拭う。

こめかみから頬を、そして首筋を玉のような汗が幾筋も流れている。

逞しい首筋を流れる汗の軌跡に、立ち上がる汗の臭い。

その様は雄々しい魅力に満ちていて、見惚れてしまう。

布で汗を拭う最中に、孫堅の肌に祖茂の手が触れる。

その肌は、熱く火照っていて、その熱さが祖茂の心を揺さぶる。

あふれ出しそうな想いを留めるために目を閉じると、今度はいつもよりも早い呼吸音が耳を犯す。

全ての感覚が孫堅を過敏にとらえ、その吸引力に抗う術はなかった。

人目を盗んで、孫堅のこめかみに唇をよせ汗を舐め取る。

すこし、塩味の効いたその味を舌の上で転がすように味わう。

「ああ、殿・・・」

思わず呟いた自分の声が、予想以上に熱を帯びていて、ハッと我に返った。

辺りを見渡すと、程普・黄蓋・韓当は未だ寝たままで、それぞれを看病している兵士達も祖茂の行為に気付いた様子はなかった。

このまま、側に居ては歯止めが利かなくなりそうで、ゆっくりと身体を起こし、孫堅から距離を取る。

名残惜しさになかなか引き離せない視線を、理性を総動員させて、孫堅から反らした。

一度は追いやった孫堅に付いていた兵士を呼び戻すと、祖茂は逃げるようにその場を立ち去った。



祖茂は人気のない場所までくると、壁を背に座り込んだ。

手に持ったままであった、孫堅の汗を拭った布に顔を埋めると、胸いっぱいに息を吸い込む。

目を閉じると、先ほど意識した孫堅の姿が鮮明に浮かぶ。

ああ、流れる汗を舌で拭い、汗を吸ってしっとりと濡れた紫色の髪をこの手に絡めたい。

熱く火照る肌を全身で感じ、その呼吸までも自分のものにしたい。

そんな、分不相応な望みが次から次へと湧いてくる。

天啓から漏れたはずなのに、まるで幻の後のように祖茂の身体が火照り出す。

「あ・・・ああっ・・・・・殿・・・」

祖茂は、顔を埋めた布をお供に、人知れず孫堅への想いに浸った。





















inserted by FC2 system