夜になって、孫策の部屋に周瑜が酒を携えて訪れた。
昼間、怒らせてしまったようだから詫びを兼ねてと言われて。
もう、気にしてねぇよと迎え入れた。
程よく酒が回ったころ、いつものように寝台になだれ込んだはずだったんだが・・・・
どうしてこんなことになっているんだろう??
怖いぐらい、綺麗な周瑜の微笑みを見たのを最後にして、孫策の視界は完全に閉ざされた。
孫策が周瑜を寝台に誘って、接吻しようとしたところで、「ちょっと、待って。」と周瑜に止められた。
「ん?どうした??」といちど腕を離して、仰向けに寝転がると、周瑜が腰の上に跨ってきた。
なんだ?騎上位がお望みか?と思って再び手を伸ばすと、今から体を重ねるつもりとは思えないほど冷静な声で、
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。」と言われた。
馬乗りになった周瑜が、両手を孫策の顔の横に付き、見下ろす。
肩からこぼれおちた長い髪が、孫策の頬をくすぐった。
「ねぇ、伯符。楽しかった?」
「へ?何がだよ。」
「覗きは、楽しかった?」
そう言われて、昼間の周瑜と享の接吻のことについて聞かれているとわかった。
まずい。昼間は俺が怒っていたから謝って収めただけだったとか?
まさか・・・・ちょっと周瑜が接吻しているところを、見てみたいなぁ〜とか思って覗いてたことバレてるのか?
寝台の上で、周瑜と二人という、普段なら甘ぁ〜い状況のはずなのに、背中に冷たい汗が流れる。
「なっ、なに言ってんだよ、俺はそんなつもりじゃ・・・」
「なら、どんなつもりだったか、ご説明頂きたいな。」
説明・・・周瑜を言いくるめれるだけの理由・・・・そんなの、こんな状況で考えろって?
無理だろそりゃ・・・・・
「いや・・・・・そのぉ〜〜〜、ごめん。」
早々に白旗を上げたのに、周瑜の雰囲気は一向に和らぐ気配がない。
「聞きたいのは謝罪じゃない。楽しかったのかと聞いているんだ。」
周瑜の声に怒気は含まれていない。ただ、淡々と質問を重ねる。
この周瑜の態度は、激しく怒られるよりも、一層恐ろしい気がする。
こういうとき、下手なごまかしは事態を悪くするから、周瑜が望むままに答えを返した。
「ああ、普段は客観的には見えないお前の表情を見て楽しむつもりだったさ。でも・・・結局、相手が俺じゃないことに、ムカついてきたけどな。」
「何でわざわざ客観的に見たかったんだ?いつも、一番近くで見てるじゃないか。」
「親父が知ってるのに、俺が知らないお前がいるってのが嫌だったんだ。」
「・・・・??」
周瑜に、心底訳が分からないとう顔をされて、慌てて補足する。
「だから、この前俺達が接吻してるときに、親父が偶然通りかかってさ。
すぐ立ち去ってくれりゃいいのに、じっと見てやがったから後で文句言いに行ったんだよ。
そしたら、『接吻の最中の公瑾の色気は格別だぞ。そんなもの曝した方が悪い。』とか言い出してよ。」
「・・・・・・・」
「それに、『ああ、お前は直前・直後の公瑾を見ることはできても、最中は無理だよなぁ〜残念だなぁ〜』とか言われて、
すっげぇ〜気になってたんだよ。だから、丁度いい機会が転がってきたから・・・つい、な。」
窺うように周瑜を見上げると、はぁ〜と大きなため息をつかれた。
うう・・・きっと、呆れられたに違いない。
「それで、接吻の最中の私はどうだった?」
「う〜ん。それがな・・・いつも見てるお前の方が色気は数段上だな。親父に担がれたかな。」
憮然とした表情で返すと、ふふふ〜と周瑜に笑われた。
「馬鹿だなぁ〜伯符は。」
「あぁ?なに笑ってんだよ〜、さっきまで不機嫌だったくせに。」
「だって、伯符が文台さまと同じ私を見るのは不可能じゃないか。」
「えっ??」
「文台様の目を釘付けにしたのは、”伯符”と接吻してる最中の私だから。」
「ああっ!!そっか、そうだよなぁ〜〜。俺が馬鹿だったぜ。昼間のことは、全面的に俺が悪かった。」
「分かってくれたのなら、いいよ。」
そういって、周瑜がとても綺麗な微笑みを浮かべた。
やっと戻って来た甘い雰囲気に、ほっとして気を抜きすぎていたのかもしれない。
いつの間にか周瑜の手には、黒い布が握られていたのに、その用途に思い至らなかった。
「じゃあ、これはお仕置きだから。」
周瑜は、手に持っていた布で孫策の視界を奪った。
「ちょっ、こう・・き・・・・・」
目隠しされたことに、驚いていたら、周瑜に接吻された。
目を覆う布を取り去ろうと、頭の後ろに伸ばそうとした手も、周瑜によって寝台に押さえつけらえる。
両手と唇で、寝台に張り付けにされた気分だ。
口付けを解いた周瑜が、甘い声で囁く。
「・・・・今夜は見せてあげない。」
その囁きに、ゾクゾクする。こいつ、どんな顔して言ってんだよ。と思っても見ることはかなわない。
「意地悪いうなよ。」
「だめだ。視覚以外で私を堪能するのも悪くないだろ。」
確かに、悪くない。
見えない分、他の感覚全てが研ぎ澄まされたように感じる。
触れ合う肌の感触、周瑜が漏らす吐息、全てがいつも以上に俺のものだ。
「しょうがねぇな。お前の趣向に乗ってやるよ。」
「趣向じゃない、お仕置きだ。」
そう言って、再び周瑜の唇が重なった。
おわり