孫策は、腕中から聞こえてきた苦しげな声に目を覚ました。

悪い夢でも見ているのか、周瑜がうなされている。

「おい、公瑾。大丈夫か?」

声を掛けてみるが、起きる気配はなかった。

「・・・・・ごめんなさい。」

という小さな呟きが聞こえ、周瑜の頬に涙が伝った。

周瑜が泣いて謝るなんて、どんな夢なのだろうかと、興味がそそられた。

起こさずにこのまま聞いていたら、もっと何か分かるのだろうかと、周瑜に伸ばしかけた手が止まる。

周瑜が記憶喪失になってから、不安になることが多いのは、心の内が読めないからだと思う。

意識したことはなかったが、以前は周瑜の考えいることが、なんとなく分かることが多かった。

記憶喪失になった直後は、やっぱり同じ周瑜だと思ったが、

一月の間に、感じた差異が積み重なって、周瑜のことが分からないと感じることが最近多い。

夢を盗み聞きする罪悪感に、周瑜の心の内を知りたいという思いが勝る。

でも、苦しげに歪む周瑜の顔を目にして、その誘惑を断ち切った。

「起きろよ!!公瑾!!」

周瑜の肩を揺さぶり、覚醒を促す。

「あっ・・・・伯符さま・・?」

目を覚ました周瑜が、孫策を見上げる。

まだ、夢と現実の境目が曖昧なのか、周瑜の視線が戸惑いに揺れていた。

「お前、ずいぶんうなされてたぜ。悪い夢でも見たのかよ?」

「・・・夢・・・?」

「ああ。覚えてないのか?」

「覚えては・・・・・いないようです。でもきっと、悪夢だったのでしょう。ありがとうございます。」

なんとなく、覚えていないというのは嘘のような気がしたが、

言いたくないのか、思い出したくないのかだろうと、追求しなかった。

俺が留守のうちに、悪夢が正夢となって周瑜を苦しめることがないようにと願う。

不意に周瑜の手が孫策の頭へと伸び、さらりと髪を梳いた。

「綺麗ですね。」

「ん〜そうか??俺は、お前の黒髪の方が綺麗だと思うぜ。」

周瑜の行動に、脈絡を感じられなくて、少々不安になった。

「なぁ、それよりも、大丈夫なのか?」

「はい。伯符さまの顔をみたら安心しましたから。」

周瑜が、控えめな笑みを浮かべた。

その愛らしさに惑わされ、不安も吹き飛んでしまう。

「もっと・・・安心させてください・・・」

周瑜の指先が孫策の唇をなぞった。

周瑜に誘われるまま、孫策の唇が重なる。

周瑜は、孫策の口付けを受け止めながら、孫策が留守の間にこの夢が正夢とならないことを切に願った。









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