周瑜は、ふわふわと意識が浮上する途中の心地良い感覚にまどろんでいた。

身体を包み込む温もりと、瞼を通して明るい日の光を感じる。

朝だ、起きなければと思うが、上手く身体が動かない。

ゆっくり目を開けると、煌く銀色が飛び込んできた。

数度瞬き、自分の置かれた状況を確認する。

煌く銀色は孫策の髪で、孫策の腕に抱かれ外套に包まれた状態で寝ていたようだ。

昨夜は、私を気遣い躊躇う孫策を誘惑して、少々強引に身体を重ねた。

だが、まだ記憶が戻る兆しはない。

身体を重ねて分かったことは、この身体は抱かれることに慣れているということ。

そして、孫策の周瑜に対する思いの深さ。

”公瑾。愛してる。”

昨夜、孫策の腕の中で幾度も聞いた囁きが蘇る。

でも、ただ”伯符さま・・・”と呼び返すことしかできなかった。

私には、孫策が愛している周瑜の記憶がない。

今の私には、孫策に”愛している”と応えるだけの思いがない。

だから、孫策の睦言を思い出すと暖かな気持ちになると同時に、チリチリと胸に痛みを感じる。

でも、孫策を呼ぶ度に、宝物を抱いているような心地がしていた。

「伯符さま・・・」

そう呟いて、目の前で煌く銀髪に手を伸ばした。

サラサラと髪を梳き、反射する日の光を楽しむ。

「んんっ・・・・・お・・はよ・・・公瑾。」

寝ぼけたままの孫策に、チュっと音を立てて口付けられる。

「おはようございます。」

甘い雰囲気が気恥ずかしくて、孫策の顔がまともに見れない。

「公瑾。気分はどうだ?」

「大丈夫です。・・・が、まだ何も・・・・」

「そうか。まあ、焦ることはない。それより、身体は辛くねぇか?」

「はい。ずいぶんと優しくしていただきましたから。」

昨夜の交わりを思い出し、頬が熱くなった。

気づいた孫策が、楽しそうに頬に口付ける。

ますます孫策の顔が見れなくなる。

視線から逃れるように、孫策の胸に顔を埋めた。

「じゃあ、今日中に戻れるかな。」

「どこにですか?」

「ここは戦のための出城なんだ。だから、本拠地に戻る予定だが・・・・どうしたい?」

「あの・・・・何か問題があるのですか?」

「戻れば、お前のことを知る人間が沢山いる。心の準備が必要なら、ここにあと数泊してもいいぜ。」

「お気遣いありがとうございます。ですが、今日中に戻りたいと思います。少しでも早く、記憶を取り戻したいですから。」

「そっか・・・・・分かった。」

孫策が立ち上がり、散らばった服をかき集め身だしなみを調え始める。

その様子を、外套に包まったままぼんやりと見上げた。

最後の孫策の声の調子に少々寂し気な響きがあったように感じたのは気のせいだろうか?

顔を上げた時には、もう笑みを浮かべていたけれど・・・

何か、気に障ることを言ってしまったのだろうか?

そんなことも、分からない自分が不甲斐ない。

孫策のことを知らない自分を自覚する度に、記憶を取り戻したいと切に願う。

孫策は焦らなくていいと言うけれど、どうしても気が急いてしまう。

身支度を整えた孫策に、クシャクシャと髪を撫でられ、思考に沈んでいた自分に気づいた。

「準備ができたら来いよ。城門で待ってるぜ。」

部屋を出て行く孫策の後姿をじっと見送った。

部屋に一人残された途端、肌寒さを感じ、外套を抱き寄せた。

顔を埋めると、孫策の残り香がして、安心した。
















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