翌日も、翌々日も周瑜が孫堅と顔を合わせる機会は幾度かあったが、

孫堅の態度が以前と変わる様子はなく、先日のことを問われることもなかった。

何事もなかったような孫堅の様子に、唇を盗んだことを気づかれずに済んだのだと安堵した。

気づかれていないならば、何もなかったのと同じことだ。

一時的な気の迷いだと、忘れてしまうことにした。

孫堅に対して芽生えた恋心を誤魔化すのは、予想以上に簡単だった。

先日の件で、孫策に心配をかけてしまったようで、

今まで以上に、孫策と接する機会が多くなったと思う。

近くで輝く太陽のような存在に、遠くの輝きを意識せずに済んでいた。

今宵も、美味い酒を手に入れたから、一緒に飲もうと誘われていた。






「そうだ、公瑾。明日から、盗賊狩りに行って来る。」

孫策が携えてきた酒もそろそろ底をつくかという頃に、孫策から告げられた。

「伯符さまが自ら率いて行かれるのですか?」

「ああ、久々の実践だから腕がなるぜ!!」

やる気満々で瞳を輝かせる孫策に、水を差したくは無いが、孫策と離れるのは不安だ。

だから、自分も共に盗賊狩りに出ることはできないだろうかと思った。

現在、形式上とはいえ周瑜隊は孫策隊に組み込まれているのだから、不可能ではないはずだ。

「伯符さま・・・・・・」

「ん?どうした?」

「私も共に行きたいのですが。」

「あれ?もしかして、俺と離れるのが不安だとか?可愛いこと言ってくれるのか?」

孫策に、あっさりと不安を見透かされたことに驚いた。

孫策の手が、宥めるように周瑜の手に重なる。

そこで周瑜は、初めて自分の手が縋るように孫策の腕を掴んでいたことに気づいた。

「あ・・・///////」

あからさまな行動が恥ずかしくて、顔が上げられない。

「数日で戻るつもりだから、大丈夫だって。」

孫策の手が、優しく髪を梳いた。

私の不安が分かっても、共に連れて行くと言わないということは、

私を数日なら一人にしても、もう大丈夫だと、信頼してくれていると考えてもいいのだろうか?

それとも、一人で羽を伸ばしたいだけか?

どちらにしても、孫策が安心して討伐に向えるようにするべきだろう。

気持ちを切り替え、孫策を見上げる。

不安を感じさせない微笑みを浮かべて、孫策に告げた。

「分かりました。成功を祈っております。」

「っ・・公瑾!!」

次の瞬間、孫策に抱き寄せられていた。

「あっ・・・・・」

戸惑う内に、視界が反転し、気づいた時には、床に押し倒される格好になっていた。

「ああ、困ったな。一時もお前を離したくなくなっちまいそうだ。」

「伯符さま・・・・」

視界が、孫策で一杯になっている。

孫策の目にも、自分だけが映っているのだろうか?

見下ろす孫策の頭に手を伸ばし、引き寄せる。

すぅーっと指の間を、孫策の銀髪がすり抜けていく。

この髪の手触りが心地よくて好きだ。

周瑜の手に引き寄せられるままに、孫策が近づく。

近すぎてぼやける視界に、目を閉じると、ゆっくりと孫策の唇が重なった。








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