周瑜が目を覚ますと、そこは白い霧が立ち込めた世界だった。

全ての感覚がぼんやりとして、己の存在すらあやふやに思える。

これが死後の世界なのだろうか?

どこに向かって歩き出せば良いのか分からず立ち尽くしていると、前方に人影が見えた。

次第に近づいてくるその影に向かって歩き出した。

しばらく、その影を追いかけていたが、何かがおかしい。

近づいているはずなのに・・・いつまでたっても、その人影と出会えない。

永遠に近づけないのではないかという恐怖に、足を止めた。

すると、人影が今にも消えそうにゆらめいた。

「あっ・・・・待って・・・」

引き留めようと伸ばした手は、虚しく宙をかき、人影は陽炎のように消えてしまった。

でも、消える直前に人影から、声が聞こえた。”命を無駄にするなよ、馬鹿野郎が・・・・”と。

ああ、この台詞を何度、戦場で聞いたことだろう。

孫策が一騎打ちに勝利した時に必ず口にしていた。

己の腕に対する絶対的な自身からでる言葉。

自分に挑んできた者の無謀さを諌めると同時に、その勇気称えるように聞こえていた。

同じ台詞なのに、遣る瀬無い悲しみを帯びていた。

「伯符・・・伯符・・・」

何度呼び掛けても、二度と声が聞こえてくることはない。

周瑜は、白くてあやふやな世界の中で、一人立ち尽くしていた。





周瑜が、孫策との最後の別れをしたいと部屋に籠ってから数刻経つ。

2人きりでの最後の逢瀬を邪魔する無粋はしたくないが、何故か胸騒ぎがする。

周泰は、部屋の前でしばらく様子を窺っていたが、意を決して中を覗いた。

部屋の中では、周瑜が孫策に覆いかぶさるようにして倒れていた。

まさか・・・と、最悪の予感が胸をよぎり、慌てて二人に駆け寄る。

「公瑾殿・・・・・・・」

恐る恐る、首筋に触れ脈を確かめる。

指先に鼓動を感じた。眠っているだけのようだと、まずは胸をなで下ろした。

そっと、周瑜を覗き込むと、頬に涙が伝っている。

その表情が痛々しくて、肩を揺さぶり覚醒を促した。

「公瑾殿。起きてください。」

「あっ・・・幼平?」

目覚めた周瑜は、自身の手をじっと見つめていた。

「これは・・・・どういうことだ?」

数度、手を握ったり開いたりを繰り返したあと、何かを探すように周囲に視線を走らせる。

「何か、お探しですか?」

「ああ、私は小瓶を握ってはいなかたか?」

「いえ、何も。」

「そうか・・・・ならば、ずいぶんと破滅的な夢を見てしまったようだな。」

周瑜は自嘲を浮かべると、隣に横たわる孫策へ問いかける。

「これを見せたのは君か?意地悪だな。これでは、絶対に後など追えないじゃないか。」






おわり



一ページ目で、思う存分ロミオのセリフを言わせてみたので、
最後ぐらいはジュリエットの「ああ、意地悪。(すっかり飲み干して、一滴も残してくれなかったの?)後が追えないわ。」
を意識して閉めてみましたw








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