孫策は、華やかな色のふわふわの衣装を着せられ、横たわるように孫堅に指示された。

呉夫人の誕生日に、ロミオとジュリエットという西方の国の悲恋話を演じてみせるという計画らしい。

それに、問答無用で引きずり込まれた。

しかも、俺がジュリエットという女役で、公瑾がロミオという男役だということだ。

どう考えたって、逆だろ?

親父の考えが全くわからねぇ。



「よぉ〜し。公瑾。墓場でジュリエットに取りすがるシーンからいくぞ。策、お前は仮死状態なんだからな。大人しく寝てろよ!!」

監督の孫堅の合図で、周瑜が演技に入る。

「人は今わの際に心が沸き立つという。

看取るものはそれを、死の前の稲妻という。

だが、どうしてこれを稲妻とよべるのだろう。」

芝居がかったセリフ回しに、こみあげそうになる笑いを必死にこらえる。

「ああ、恋人、僕の妻。息の蜜を吸い取った死神も君の美しさにはまだ力を及ぼしていない。」

でも、こんな形容詞盛りだくさんのセリフ、公瑾はよく覚えられんなぁ〜。

「・・・・目よ、これが見納めだ。」

ああ、周瑜の熱い視線を感じて心地よい。

「腕よ、抱き締めるのもこれが最後」

こんどは、ふわりと周瑜の腕に包まれた。

くそっ、抱き返せないのがもどかしい。

「唇よ、息吹の扉よ正当な口づけで捺印しよう」

セリフに合わせて周瑜の唇が重なった。

う〜ん。配役に若干の不満はあるが、悪くないかもしれねぇな。

でも、仮死状態に徹しているのにも飽きてきた。

ふわふわな衣装で孫堅に対してうまく死角を作り、周瑜の腿に手を這わせる。

白くピッチリとした衣装(白タイツ)はとても無防備だ。

内腿を撫で上げると、周瑜のセリフが一瞬とまる。

「・・・っ・・・さあ、苦い導き手、いやな味の案内役。」

薄く眼を開けて、周瑜の表情をうかがうと、きつく睨まれた。

「今こそこの身を砕いてくれ。愛するジュリエットのために。

こうして口づけしながら私は・・・死ぬ」

再び周瑜の唇が重なる。

そして、胸の上に周瑜の重みを感じた。

しばらくその重みを堪能したあと、ガバリと体を起こす。

はぁ〜やっと仮死状態も終わりだ。ここからは俺の出番だぜ!!

「んぁ?これは、なんだ?」

と、初めてジュリエットのセリフを口にしたのだが・・・

「かぁ〜っと!!こら、策!!なんだその言い方は!!」

「??違ったっけか?」

「全然ちがぁ〜う。お前はジュリエットなんだぞ。ヒロインだぞ。もっと、可愛く可憐に”これは?なに?”って言わなきゃダメなんだ。」

「無茶言うなよ親父。俺に可愛くて可憐なんて、にあわねぇ。」

「だから、面白いんじゃないか。」

「・・・・・・・・」

「ママを喜ばせたいんだ。協力してくれるよな、息子よ。」

「・・・・・だったら、親父がやりゃいいだろ、自分だけ監督とか言って楽しやがって。」

「ほぅ。いいのか。」

ニヤニヤと笑みを浮かべる孫堅になんだか嫌な予感がする。

「では、代わってやろう。さあ、公瑾!!正当な口づけで、この契約に捺印を〜v」

孫堅が喜々として、周瑜に向かって腕を広げる。

周瑜に口づけを迫る孫堅との間に慌てて割って入った。

「ちょっと待ったぁ〜!!やっぱ、ものっすごくジュリエットやりたくなった。」

「いいんだぞ?無理しなくても。」

「これは?なに?(裏声)・・・・で、いいんだろ。」

「おぉ〜やればできるじゃないか、その調子で行くぞ!!」

こうして、孫堅に丸め込まれた孫策は、可憐な女性役を必死で演じることになったのだった。






おわり



以前日記にUPしたものです。








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