孫策達が戦闘の準備に向かうと、部屋の中は一気に静かになった。

この部屋には周瑜の他には看病役兼見張り役の侍女が一人居るだけだ。

周瑜は大人しく寝台に横たわり、目を閉じていた。

今の自分には孫策に言われたように大人しく体を休めていることぐらいしかできない。

しかし、目を閉じてしばらくしたが、一向に眠れない。

そうしているうちに、城外での戦闘音が聞こえ始めた。

聞こえてくる音から、戦況を思い描く。

開幕の動き方から考えて敵方にも伏兵は居ないようだ。

ならば、序盤から大崩になる危険はないだろう。

対等な戦力での戦ならば、孫堅・孫策に対して不安を感じることはない。

でも、周姫と小喬に関しては別だ。

自分が守るべき女達が、自分を守りたいと似合わぬ戦場に身を投じている。

足を引っ張ってはいないだろうか?無茶をしてはいないだろうか?

いや、私の代わりに戦場に出ていること自体がすでに無茶なのだけれど・・・・

どうか、怪我などすることなく帰って来て欲しいと願う。

必死に音を拾っていたが、次第に入り乱れる戦闘に状況が分からなくなってきた。

そんな折に、小喬隊撤退の知らせが聞こえた。

思わず、上体を起こしたら、急に動いたことにより目眩がした。

兵力が尽きて撤退しなければならないことなど、戦闘中に日常茶飯事なこと。

わかっていても、その知らせに動揺した。

駄目だ。状況が分からないと余計に心配になる。

こめかみを押さえて、目眩をやり過ごしていると、侍女が心配そうに歩み寄ってきた。

「大丈夫ですか?」

「・・・ぁ・・ああ。だぃ・・じょうぶだ。」

しかし、応えた声はひどく掠れていた。

侍女が周瑜に水が入った椀を手渡す。

水を飲み干すと、少し体が楽になった気がした。

きっと、城内を多少歩き回るぐらいならば大丈夫だと思う。

もう一杯と、所望するように椀を侍女に向ける。

侍女が水差しを傾けた瞬間、周瑜は咳込む振りをして身体を丸めた。

その拍子に、持っていた椀で水差し押しやり、中の水を零れさせる。

こぼれた水が、侍女の膝を濡らした。

「あっ・・・申し訳ございません!!」

「いや。すまない、だいぶ濡れてしまったな。新しい水を用意するついでに、着替えておいで。」

慌てる侍女に、優しく微笑む。

「はい。ですが・・・」

侍女は、孫策や小喬から目を離すなと言い含められている手前、戸惑った様子を見せる。

信用されてないなぁ〜と思いながら、侍女を見上げて穏やかな笑みを浮かべる。

「ちゃんと大人しく寝ているから。」

「わかりました。すぐに戻って参ります。」

言質を取ったことで少しは安心できたのか、侍女が退室する。

周瑜は、侍女の足跡が遠ざかり、完全に聞こえなくなるのを待ち、布団を抜け出した。






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