周瑜は部屋を抜け出すと、まずは城壁の上に向かった。
この場所ならば、戦場全体を見渡せ、状況が掴みやすいはずだ。
周瑜は城壁の上に登ると、戦場を見渡そうと身を乗り出した。
すると、間の悪いことにちょうど攻城中だった敵部隊の梯子がかかり、目前に敵兵が現れた。
城に乗り込もうとした敵を、とっさに切り捨てる。
ぱぁりぃ〜〜ん。と攻城ゲージが削られる音が響く中、城壁上は激しい戦闘に突入した。
ざっと周囲を見渡すと城壁右半分に梯子が3本掛けられているのが見える。
いっぺんに3部隊からの攻城を受け、城壁での防戦が激しさを増す。
出陣部隊に防ぐ余力がないのだろうか?
それとも、多少削らせても士気差を稼ぐ戦法か?
戦況に想いを馳せながら、侵入して来る敵と切り結ぶ。
抜けきらない熱で、多少身体の動きは重く感じる。
だが、周囲にそれを感じさせない流麗な剣捌きで敵を押し返す。
ああ・・そろそろ2発目の攻城が入ってしまう頃合いだ。
そう思ったところで、敵の侵入がピタリと止まった。
敵が引いた城壁から戦場を見下ろすと、赤い闘気をまとった2部隊が攻城を阻止している姿が見えた。
武力24の孫策と武力14の周姫にかかれば、並みの号令など目ではないだろう。
攻城部隊を蹴散らしていく2人を眺める。
孫策の武力上昇幅が上がった恩恵を周姫も受けて、この2人のコンボは圧巻だ。
しかしながら、攻城を許した上に士気7の使用。
少々、計略使用の時機が腑に落ちないところではある。
しばらく戦況を見ながら身体を休めていたが、戦闘により上がった息がなかなか収まらない。
「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・」
自分自身の呼吸音が耳に付く。
身体が熱くて、とめどなく汗が噴き出す。
確実に熱が上がっていると思う。
ここにいても、次に攻城を受けた際には足手まといになるかもしれない。
部屋に帰って寝ているべきだと分かっている。
でも、状況が気になってここから動く気になれない。
どうしたものかと思案していると、しゃがれ声に怒られた。
「病人が、こんなところで何をしとるのですか!!」
後ろを振り返ると、軍師張昭がこちらを睨んでいた。
城門の真上に設けられた軍師席に居るはずの張昭の登場に軽く驚いていると、
むんずと腕を掴まれた。
「しかも、ずいぶんと熱が上がっているようじゃ。」
張昭は、いかめしい額の皺を一層深くして、軽率な行動をたしなめるよう。
「すみません。でも、気になってしまって・・・」
周瑜が小さく言い訳すると、張昭は呆れたようにため息をついた。
「孫策様も、お嬢さまも、あなたも無謀がすぎますな。」
無謀という言葉が、孫策と周姫にも掛っているのが気になった。
「まさか・・・先ほどの計略使用は・・・」
「神速行で凌いで士気差を作る予定が、あなたの姿を城壁に見つけた途端に2人して暴走じゃ。
ふぉっ、ふぉっふぉ〜困ったのぉ〜」
張昭は軽く笑い飛ばしているが、士気6を士気4で返す予定のところでの士気7使用はずいぶん痛いはずだ。
しかもそのきっかけを作ってしまったのは自分となると、いたたまれない。
「また暴走されると困りますからな。こちらにどうぞ。」
張昭は周瑜の腕を引くと、軍師席へと導いた。
部屋に追い返されるとばかり思っていたので、少し驚く。
「抜け出して無茶をされるより、安全な場所に案内した方が良いと思うたんじゃが?」
周瑜の考えを見透かしたように張昭が言った。
「・・・・すみません。」
しかし、張昭は、若い者達の無謀ともとれる勢いに振り回されることには、慣れたもので、
ふぉっ、ふぉっ、ふぉ〜お主もまだまだ若いのぉ〜
と、周瑜の我儘も、孫策と周姫の暴走もすらも穏やかな笑みで軽く包み込む。
そして、周瑜は一番の特等席で孫策達の活躍を見守ることができることになった。
つづきへ