その日の夜も更けた頃、朱治は漢軍孫堅に勧められるまま、その部屋を訪れた。

先ほどまで、部屋の中では漢軍孫堅が天啓孫堅と酒を酌み交わしていた筈で。

天啓孫堅をその気にさせてやったから、しっかり話し合ってこいと言われてここに来た。

しかし、部屋に踏み込んだ途端、目の前の予想もしない光景に一歩も動けなくなった。

部屋の中には、天啓孫堅が全裸で横たわっていた。

腕を背後に拘束されていて、ゆるく開かれた内腿には白濁が伝っているのが見える。

無理やり犯され、意識がない状態で捨て置かれた。

そんな状況にしか見えない。

この惨状は、漢軍の殿によるものなのだろうか?

そう考えるのが妥当だけれど、これのどこが私に協力してくれているのかわからない。

分かりなくないと思った。

漢軍孫堅への憤りで身体が震える。

でも・・・天啓の殿が私に抱かれることを望んでいらっしゃらないならば、

私の望みは、漢軍の殿がしたことと大差ないのかもしれない。

そう考えると、切なくなる。

自分には、その資格がない気がして、天啓孫堅にそれ以上近づくことができない。

かといって、立ち去るという選択もできない。

駄目だと自分を戒めても、天啓孫堅の扇情的な姿から目を離せない。

だから、ただ立ち尽くしていた。



「ん・・・・・」

短い呻き声が上がり、孫堅が身じろぐ。

「ずいぶんと、無茶をしてくれたものだ。」

そう呟くと、腕が使えず不自由な身体で、ふらふらと上体を起こす。

朱治には背を向けたままの体勢のため、まだ存在に気付いた様子はない。

「文台さま・・・」

そっと呼びかけると、ビクリと孫堅の背が強張った。

「・・・・朱治か?」

「はい。」

「何をしに来た?」

孫堅の声は冷たく、返答に詰まる。

「・・・・・それは・・・・」

「俺を抱きにきたのか?」

背を向けたまま、冷え切った声音で問われる。

孫堅が醸し出すあからさまな拒絶。

存在自体を拒否されたのは、始めてで、しばし呆然と立ちつくす。

「申し訳ございません!!失礼しました。」

とにかく、自分はここに居てはいけないのだと思い、部屋を立ち去ろうとした。

「待て。」

しかし、それは孫堅の声で引き留められる。

「お前まで、俺を見捨てて去るつもりか?」

「文台さま?」

「これを解いてくれ。」

そう言って、戒められたままの腕を示す。

「あっ・・・すみません・・・」

慌てて、駆け寄ると孫堅の背後に膝をついた。

腕の戒めに手を掛ける。

しかし、そこから動くことができなくなった。

目前にさらされている孫堅の素肌から目を離せない。

汗と精液の混ざった臭いを間近で感じて、身体の底から抑えようもない衝動がこみ上げる。

「文台さま・・・」

そう囁くと、孫堅の背中に頬を寄せた。

その肌は、汗が冷えて冷たく、心地よい。

「朱治・・・俺は、戒めを解いて欲しい。だが、お前はどうしたい?」

孫堅からは先ほどのような拒絶は感じられず、穏やかに問われる。

そうだ、私はこの戒めを解きたくないと思ってしまったのだ。

この戒めを解かなければ、今ならば、私でも文台さまを組み敷くことが叶うかもしれない。

「お前は俺を抱きたいのだろう?今、ならばそれも可能かもしれないな。」

その可能性を孫堅自らにも示される。

まさか、私に許してくださるのだろうかと、僅かな望みが浮かぶ。

「だが、俺がお前に抱かれたいかと問われたら・・答えは否だ。」

しかし、その望みはすぐに儚く消えた。

今、お前は俺を抱ける。でも、俺は嫌だ。さあ、お前はどうする?

そんな選択を迫られる。

”天啓のが望むことと、朱治ちゃんが望むことどっちを優先するかが問題だ”

昼間、漢軍孫堅に言われたことが頭を過った。





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