「文台さまが望まぬことを強いるなど、できようはずがございません。」
そう告げると、朱治は孫堅の腕の戒めを解いた。
そのまま背後から孫堅の腰に腕をまわし、ギュッと抱きしめた。
正面から向かい合う勇気がなくて、孫堅の背中に縋りついたまま問いかける。
「文台さま・・・・愛しております。私のこの想いは、ご迷惑でしょうか?」
「いや、お前の気持ちは嬉しい。」
私の気持ちが疎ましいわけではない。
それが、分かっただけでも嬉しくて堪らなかった。
「では、文台さまを見つめ続けることをお許しいただけますか?」
「ああ。お前の視線は心地よい。その視線が他に移るのは寂しいと思う程に。」
全身が歓喜に震えた。
私が心変わりしたら、寂しさを感じていただけるということは、
例え僅かばかりだとしても、文台様の心の中に私の場所があるということだ。
「ああっ、文台様!!」
感極まって、一層つよく孫堅を抱きしめる。
応えるように、孫堅の手が朱治の腕に重なった。
私の想いが文台様に通じている。
この幸福と比べたら、私のちっぽけな欲望など塵芥のごとしだ。
「すまん。朱治。少々寒いし、眠いんだが。」
うっとりと幸福に浸っていると、孫堅に遠慮がちに声をかけられた。
「あっ、申し訳ございません。」
未だ全裸のままであった孫堅の状態に気付き、慌てて腕を離す。
近くに散乱したままの上着を拾い上げると、孫堅の肩に掛けた。
孫堅が袖を通すさまをじっと見つめる。
次第に服の下に隠されていく肌を惜しむ気持ちを押し隠して、着衣を手伝った。
「お疲れでしょうから、どうぞお休みください。」
そう言って、朱治は孫堅を寝台へと導いた。
「ああ。ありがとう。」
寝台に横たわった孫堅が目を閉じる。
朱治は、無防備に目を閉じた孫堅の横顔から目が離せなくて、
立ち去るべきだと分かっているのに、孫堅の枕元から足が動かなくなってしまった。
朱治がうじうじと、その場に留まり続けていると、孫堅がゆっくりと目を開けた。
「俺は、今、抱き枕が欲しいんだがな。」
孫堅は上掛けの端をめくると、朱治を招いた。
朱治がふらふらと引き寄せられるように、寝台に滑り込むと、孫堅に抱きしめられた。
孫堅のぬくもりを身体いっぱいに感じる。
心地よい鼓動を刻んでいる胸にそっと耳を寄せた。
孫堅の匂いを胸いっぱいに吸い込み、頬をくすぐる吐息に神経を集中させた。
感覚の全てが過敏に孫堅を捉える。
孫堅にそのつもりがないのは明白なのに、誘惑されているような気分になる。
気を抜くと不埒なことをしてしまいそうで、孫堅の腕の中で小さくなっていた。
「文台様・・・良いのですか?」
私の欲望をうまく交わしてみせた直後に、平気でその欲望を再燃させるようなことをする。
試されているのか?弄ばれているのか?
それとも、これは許容範囲内の餌ということだろうか?
孫堅の意図がわからなくて、戸惑ってしまう。
「ん〜。温かいな。お前を抱いて寝たら気持ち良さそうだ。」
そう言って、孫堅が朱治の頭に頬を擦り寄せる。
「朱治、お前とこうやって寄り添って寝るのは、嫌いじゃない。」
「文台様!!」
朱治は孫堅の首筋に腕を回し、抱きついた。
孫堅が望むならば、一晩中抱き枕に徹して見せようと思った。
だから、いつの間にか吐息が交り合うほど近づいていた孫堅の唇に気づいても、
その唇を貪りたいという衝動を必死で抑えていたのに。
「お前との接吻も嫌じゃない。」
と、またも孫堅自身が箍を外すようなことを言う。
「ああ・・・文台様・・・」
朱治はうっとりと孫堅の唇に自分の唇を重ねた。
孫堅の唇が、深い口付けを誘うように開く。
誘われるままに、角度を変え舌を絡めた。
絡め取った孫堅の舌を追って口内に侵入したところを、強く吸われ、
ズクンっと、腰の奥に甘い衝動が駆け抜ける。
「はぁ・・はぁ・・・文台さまぁ」
自分の下肢が抱き枕に有るまじき、反応を示し始めているのを自覚した。
慌てて、口付けを解いたが、ぴったりと寄り添った状態だったから孫堅にも気付かれているはずなのに、
孫堅は、知らん顔で穏やかな笑みを湛えると、もう一度チュッと朱治に接吻をした。
「おやすみ、朱治。」
孫堅から濃厚な口付けを誘ったくせに、まるでただのお休みの挨拶だとでも言わんばかりの表情でのたまう。
「お・・・おやすみ・・なさい・・・」
腕の中で真っ赤になって、しどろもどろに挨拶を返す朱治を、孫堅が楽しそうに見つめる。
「朱治・・・多少の悪戯は許そう。俺の安眠を妨げない限りな。」
孫堅は最後に、朱治の心を揺さぶる発言を残すと、目を閉じた。
朱治は、孫堅の許可に一瞬期待を膨らませたが、
悪戯することと、安眠を妨げないこと、この2つは並び立つことなのだろうか??
やっぱり、からかわれているだけ??
と、ぐるぐる考えているうちに、すぅすぅと孫堅の穏やかな寝息が聞こえはじめた。
ええっ、文台様ぁ〜寝るの早いですよ!!
ああ、でも、この寝顔を独り占めできるのは、抱き枕の特権ですね。
それに、起こさなければ、何をしてもいいってことですよね?
ふふふ〜夜は長いし、楽しみですねvぶ・ん・だ・い・さ・ま〜vV
朱治は無防備にさらされる孫堅の寝顔を堪能しながら、妄想を膨らませ始めた。
そして、極上の餌を目前にした妄想は止まることなく、結局朱治は朝まで孫堅の腕の中で身悶えることになった。
窓から差し込む朝日に反応した孫堅が身じろぐ。
「んん・・・・」
覚醒が近い様子に、ドキドキと見守っていたが、不意に己の状態に思いいたって慌てた。
悪戯を許されたといっても、髪に触れるぐらいしかできなかったのに、
絶え間なく繰り広げていた妄想と、無意識に漏らされる孫堅の声に煽られて、
再び、抱き枕に有るまじき状態になっていた。
熱を収めようとしても、孫堅の腕の中で叶うはずはなく、
こっそり昇華させてしまうには、猶予が少なすぎる。
ああああああ〜どうしよぉ〜〜〜。
寝起きの文台さまが私をみて微笑んでくださったりとか、いの一番にお目覚めの挨拶を交わせたりとか、
お目覚めの接吻だって夢じゃないかもしれないのに!!
とっても、美味しい瞬間が手の届くところにあるのに、さわやかな朝を迎えれる状態じゃない。
うわぁ〜〜ん。一生の不覚!!
朱治は、孫堅の腕の中から泣く泣く抜け出すと、ダダダァッと孫堅の部屋から走り去った。
走り去る朱治の足音で、さすがに孫堅が目を覚ます。
腕の中から消えているぬくもりに首をかしげる。
なんだ、いないのか?もしかして、さっきの足音は朱治か?
俺が目覚める前に逃げたのは、なぜなんだ?
多少の悪戯は許すと言ったが、安眠を妨げるなと釘をさしたから大したことはできないと高を括っていたが・・・
何か、突拍子もないことでもしたのだろうかと自分の身体を確認する。
特に、何かされたような感じもないしなぁ〜なんだ?
考えながら、髪を手でかき上げようとしたときに、普段とは違う引っかかりを感じた。
その引っかかりを目の前に持ってきて確かめる。
左右の髪がひと房ずつ、細い三つ編みにされていた。
”安眠を妨げない悪戯”で朱治がたどり着いたのがコレかと思うと、自然に笑みが浮かぶ。
「ふふっ、可愛い奴め。」
孫堅は編みこまれた髪に愛しむように唇を寄せた。
おわり
なんか、朱治と天啓孫堅のCPって、たまに思い切って朱治×孫堅でおし切っちゃおうかなぁ〜って
思ったりもするけど、なんかもったいない(?)気がして。
しかも、朱治を孫堅がうまく丸めこんで孫堅×朱治路線ってのも、今更ないなぁ〜と思い。
結局朱治×孫堅風味の朱治→孫堅から脱却できない気がする今日この頃です。
でも、私は孫堅の魅力にメロメロで振り回されまくる朱治とか程普とか黄蓋とか韓当とか祖茂とか
が好きなので〜。きっと、これでいいのだぁ〜w
あと、朱治から事の顛末を聞いた老将達のアレコレが浮かんできたので、おまけを書いちゃいましたv
おまけ(老将達の妄想)