「はぁ〜、文台さまが遠い・・・・・」
朱治は、天啓孫堅が率いる軍が戦闘中の戦場を見つめ、切ない溜息をつく。
今日も孫堅と出陣しているのは、程普・黄蓋・韓当・祖茂で、朱治はまたもやお留守番だ。
昨夜、孫堅に韓当の代わりに私をお連れ下さいと頼んだが、
柵がないからなぁ〜〜と色良い返事を頂けなかった。
もう、半年も孫堅と同じ戦場に立っていない。
半年も・・・・天啓の幻の甘美な陶酔を味わっていないのだ。
「・・ああ・・文台さま・・・・」
「お〜い。朱治ちゃん?切ない顔してどうした?”俺”のこと呼んだんじゃなさそうだが?」
軽い調子で朱治に声を掛けたのは漢軍孫堅だった。
鍛え上げられた身体を惜しげもなくさらし、野性的な笑みを浮かべている。
朱治の顔を繁々と覗き込み、親しげに頬を突いた。
「なあ〜。折角可愛いんだから笑ったほうがいいぞ?」
「笑えるような、気分ではありまえんから・・・」
「天啓のと上手くいってないのか?俺でも、話ぐらい聞いてやれるぞ。」
漢軍孫堅は朱治の髪を手に取ると、くるくると弄び始めた。
その気安い雰囲気に朱治もついつい愚痴をこぼしてしまう。
「天啓の殿は・・・・私にだけなぜか冷たいような気がするんです。」
「へぇ〜そうなのか?」
「もう、半年も戦場にお連れ下さいません。何度も頼んでも。色良い返事を頂けなくて・・・・」
「それは、酷いな。」
「私の想いをご存じなのに、するりと交わされてばかりなのです。」
「まぁ〜そりゃぁ〜すべてに応えられわけじゃないだろ?」
「でも、私以外の者にはとても寛容で・・・・私の何がいけないのでしょうか?」
朱治の必死な形相に、さすがに漢軍孫堅も、真剣に考えた。
戦に関しては、柵なし弓兵だから、計略の相性が良くなければ、残念だが候補に入りにくいだろう。
だが、天啓孫堅が朱治の想いにだけ、応えない理由は良く分からない。
他の者には応えているというのなら尚更だ。
だって、他といえば・・・程普だの、黄蓋だの・・・おっさん連中だろ?
絶対に、可愛い朱治ちゃんの方がいいに決まっている!!
まさか・・・天啓のは老け専か??
「よし!!分かった。俺が天啓のにそれとなく聞いてやろう。」
「いえ、それは・・・」
朱治の目が不安げに揺れる。
知りたいけれど、知るのが怖いというい朱治の気持ちも理解できるが、それでは、何も変わらない。
「理由を聞くのが怖いのか?でも、生殺しの状態よりいいだろ?」
「そう・・ですね・・・お願いします。」
「おう。俺に任せとけよ!!」
自信満々な笑みを浮かべると、漢軍孫堅は悠々と立ち去っていく。
でも、朱治のためというよりも、実は漢軍孫堅自身が、天啓孫堅の心の内を聞いてみたくてうずうずしていた。
なんか、面白そうなことになってるじゃねぇか。
はははっ、天啓のを突いて遊べるいい機会になりそうだ。
俺と同じ、熱い血潮を抱えてるくせに、冷静ぶったあの態度・・一度くずしてやりたいと思ってたんだぜ。
つづく
すみません、このあと漢軍孫堅と天啓孫堅の・・・・・に続きます。
てか、そっちがやりたかった。
ごめん。朱治きゅんは前座です。