周瑜が意識を取り戻したのは、深い森の中だった。

張角の竜巻にかなり高くまで巻き上げられた時は、もう駄目かと思ったが、どうやら生きてはいるようだ。

きっと、木の枝葉が落下時の衝撃を多少は和らげてくれたのだろう。

ゆっくりと上体を起こすと、自分の身体を確かめる。

身体中に木の枝に引っかかってできたような傷が多数あるが、命に関わるような出血はみられない。

全身に鈍い痛みはあるが、臓器等の損傷もなさそうに感じた。

ひとまず、死の危機には瀕していないことに安堵した。

しかし、立ち上がろうとした時に、足首に鋭い痛みが走った。

捻ったのか、折れたのかは分からないが、立って歩くことは叶いそうにない。

困ったなぁ〜どうしたものかと考えてると、自分を呼ぶ声が聞こえて来た。

「周瑜様!!ご無事ですか?」

それは、共に竜巻に巻き込まれた周瑜配下の兵士の一人だった。

「あの高さから落ちたにしては無事だが、足を負傷して歩けない。」

「分かりました。では、どこか安全な所へ。私が助けを呼んで来ます。」

そう言って、周瑜に手を伸ばした兵士の背後から、急に黒い影が襲った。

あっと思った時には、周瑜の目前にすでに鮮血が舞っていた。

いつの間にか兵士の背後に現れた熊が、その鋭い爪で兵士をひと薙ぎしたのだった。

ギシャァーッ!!

っと威嚇の唸り声を発した熊が、今度は周瑜に向かって鋭い爪を振り降ろす。

周瑜は咄嗟に横に転がって避けるが、熊の攻撃は執拗に続いた。

次々に振りおろされる爪を避けながら、先ほどの兵士の弓を手に取る。

動きを止め、周瑜が正面から熊と対峙した。

相手が獣であろうと人であろうと、気力で負けたら終わりだ。

ギリギリと弓を引き絞ると、熊の殺気に負けぬ強い眼光で睨みつける。

周瑜が放った矢が熊の眉間に命中した。

グォオオオオーッ!!

と熊が苦悶の叫びを上げながら、闇雲に爪を振り回す。

的確さを欠いた攻撃に巻き込まれないように距離をとると、目や喉を狙って矢を放つ。

複数の矢を受けた熊が、ドサリと地に倒れた。

しばらくうごめいた熊が完全に沈黙したのを確認して、周瑜は改めて辺りを見渡した。

熊が倒れ伏している後ろに、巣穴らしきものがあった。

その穴の中に気配を感じ、再び弓の狙いを定めると、穴の中から子熊が2匹転がり出てきた。

周瑜が射止めたのは母熊だったようで、子熊は動かなくなった母熊に纏わり着く。

熊の執拗な攻撃は、子を守るためだと思うと得心がいく。

周瑜はしばらく矢を向けたまま子熊の様子を観察していたが、子熊がその場を離れる気配はない。

母熊がもう動かないことを悟ると、周瑜に向かって威嚇し始めた。

万全の状態ならばいざ知らず、足を負傷し、行動が制限されている現状では、

この子熊達を放っておくことは命取りになりかねない。

周瑜は敵意を見せ始めた子熊をためらうことなく射殺した。



「はぁ〜。運が良いような、悪いような微妙なところだな。」

この惨状を目の前にして、思わずため息が漏れる。

あの竜巻に巻き込まれて生きてたことで、その後の運を使い切ってしまったのではないかと思う。

落ちたところが、たまたま熊の巣穴の前でいきなり危機に陥った上、助けを呼ぶ術まで失ってしまった。

しかも、空を見上げると暗雲が立ち込め、遠くに雷鳴が聞こえる。

時期に雨が降り始めるのだろう。

雨の中、負傷した足で無事に自陣まで帰りつけるとは思えない。

周瑜は熊の巣穴の中で、雨宿りをすることにした。









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