「なぁ、公瑾。俺はお前より先には絶対に死なねぇぞ」


いきなり、下から聞こえてきた声に、突然、何を言い出すんだ?と

周瑜は孫策へと視線を落とした。

先ほどまでは、寝ていたはずなのに・・・・

いつのまに起きたのだろうと、髪に触れていた手を止めた。

孫策が真剣な眼差しでこちらを見つめている。



夕刻に、前触れもなく、部屋にやってきた孫策は、あぁ〜疲れたぜぇ〜〜と

周瑜の膝に頭を預けると、周瑜が言葉を返す暇も与えずに、眠りに落ちていった。

いつも、唐突なんだから・・・困った人だと苦笑を漏らしながら、寝顔を眺める。

きっと自分の前だけで見せるのだろう、無防備な寝顔を堪能していたが、

始めは穏やかだった寝顔が、時折寂しげに歪む。

哀しい夢でも見ているのだろうか?

周瑜は宥めるように髪に触れていた。



孫策の髪に触れながら、沈みゆく夕日にしばし視線を奪われていた。

そんなときだ、孫策の声が突然聞こえてきたのは・・・

周瑜は、孫策の真剣な眼差しに柔らかな視線を返す。

「それは、嬉しいが・・・私を残して逝くのはそんなに不安か?

私が伯符を忘れて、他の者に忠誠を誓うとでも?妬いてくれるのならば嬉しいが、私を見くびるなよ。」

穏やかだが、きっぱりと言い切る周瑜に、違うんだそんなことを心配してるんじゃないともどかしく思う。

「お前の俺に対する気持ちを疑ってるわけじゃないぜ。」

孫策は周瑜の腰に腕を回すと、顔を埋めた。

周瑜の香りに包まれ、夢の残像を頭から追い出してしまおうと目を閉じる。

珍しく甘えてくる孫策に、周瑜は両手で孫策の頭を包み込むように抱きしめた。

「嫌な夢だったのか?」

周瑜の問いに、ぅんん〜〜と唸るだけで答えをはぐらかす。

周瑜もそれ以上尋ねることもなく、ただ孫策を抱きしめていた。



嫌というよりも・・・・やるせない夢だったのだ。

この戦乱の世では正夢となる可能性を想像することは容易な。

孫策は有り得る未来を見てしまったのだと思った。

己の死後の周瑜を・・・・



周瑜は涙も見せずに気丈に振舞っていた。

悲しみから抜け出せずにいる権を励まし、支え、俺の穴を完璧に埋めてくれている姿に頼もしく思ったのだ。

公瑾に任せれば孫呉も安泰だと・・・始めは安堵したのだが、

何故、誰も気付かないのか?

きっと、俺の死を乗り越え、孫呉を支えねばと・・皆いっぱいなのだろう。

俺のせいだと分かってはいるが・・・誰か気づいてくれと願う。

ふとした瞬間に周瑜から、周囲を安堵させるように浮かべていた微笑みが消えた。

感情が抜け落ちたような表情で虚空を見つめている。

ほんの一瞬のことなのだが、必要以上に無理を強いているのではと不安になる。

俺が言ったんだ、後は任せたと、権を支えてやってくれと・・・俺の夢はお前とともにあると。

お前以外に託せる奴はいないから。

だが、それが負担をかけてしまっているのか?

お前自身が悲しみを乗り越える前に、無理をさせてしまっているのだろうか?

心配になった孫策は、自室に戻っていく周瑜にこそりと付いていった。



周瑜は自室に向かったのだとばかり思っていたが、方向が違う。

気が付いたときには、孫策が使っていた部屋の前に来ていた。

どうしたんだろうか?と様子を見守っていると、すでに暗い部屋の中、周瑜は孫策の甲冑へとそっと歩み寄る。

甲冑に触れながら、ポツリと呟く声が聞こえた。

「伯符・・・・」と

声が、肩が震えている。

頼りない後ろ姿にに思わず駆け寄り抱きしめようとするが、身体がすり抜けてしまう。

もう、触れることの適わない己に死というもの実感した。

見守ることしかできない孫策の耳にガタリと扉の開く音が聞こえた。

入ってきたのは周泰だ。

「何をしている?お前は殿についていろと言っただろう。」

周泰はゆっくりと周瑜に歩みよる。

「あなたが心配なんです。」

「・・・・私は・・大丈夫だ。」

暗闇の中でも表情が確認できるほど近づいた周泰は

「大丈夫には見えませんが?」

と周瑜に触れようとした。

「大丈夫だと言っているだろう!!」

周瑜は声を荒げると周泰に背を向けてしまう。

大丈夫だと言いながらも震える肩に周泰は思わず後ろから周瑜を抱きしめた。

僅かな抵抗が返ってくるが、更に腕の力を強める。

しばらくすると、諦めたのか、周瑜は周泰に背を預けながら、話始めた。

「この腕が、身体が伯符のぬくもりを覚えているのに、もうどこにも伯符が感じられない・・・・

もう居ないと分かっているのに、探してしまうんだ」

「・・・・・・」

黙ったままの周泰に周瑜は続ける。

「伯符のいないこの世は・・・・全てが色あせて見えて、自分の立っている場所でさえ・・・・

見えないんだ。伯符と二人で見ていたはずの夢も。なにもかも。」

静かに頬を伝う涙を拭うことはぜず

周泰は私の腕の中でよろしければ、いくらでも泣いてくださいと周瑜を抱きしめ続けていた。



孫策は、見守るしか出来ない歯痒さに苛まれていたところで、意識が浮上した。

周瑜を遺したくはないと切実に願う。

孫策は、消えない夢の残像に周瑜にしがみついたままでいた。

周瑜は、なかなか浮上してこない孫策に、よほど夢見が悪かったのだろうと思う。

孫策の髪に口付けると、耳元で囁いた。

「そんなに悪い夢なら、私が忘れさせてやるぞ?」

思わず顔を上げた孫策に周瑜は口付ける。

ならば忘れさせてもらおうかと、孫策は周瑜に溺れていった。







我が永遠のアイドル様のニューシングルを聞いている時に浮かんだ、
孫策を求めて彷徨う周瑜様で妄想しちゃいましたvv
が、なんか彷徨わせる前に周泰に邪魔された!?
まあ、いっか〜〜
タイトルは、永遠のアイドル様繋がりで・・・「人間・○格〜たとえばぼくが死んだら〜」
のサブタイトルより〜〜





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