周瑜が退出した後の部屋で、孫堅は相変わらず不機嫌さ全開だった。
「殿・・・」
「まだいたのか?用がないのなら、もう出て行けよ。」
「用はできました。」
背を向けてしまった孫堅の気を引きたくてそっと髪に触れた。
髪に口付けても、頑なに無視されてしまう。
そんな態度も、愛しいと感じるから、困ってしまう。
「殿に機嫌を直していただかなくてはなりませぬ。不機嫌なのはワシの所為でしょう?」
「さあな。」
「申し訳ございません。実は、興奮しておりました。」
「お前・・・」
やっと振り向いてくださった殿の驚きに染まった瞳に、じっと見つめられる。
その魅惑的な煌きに、くらくらと惑う心を抑えきれない。
「殿が公瑾に迫っているところを覗き見て、興奮を覚えておりました。」
変態と罵られるのも覚悟で、正直なところを告げた。
予想外の告白に混乱しておられる殿を引き寄せ、体勢が崩れたところを押し倒してしまう。
床に散らばる紫色の髪を一房掴むと唇を寄せた。
「ワシ自身の腕に閉じ込めたいのが一番の望みでございますが、他の者と戯れておられる殿ですらも・・・
どんな殿のお姿も、愛しくてたまりませぬ。」
「趣味が悪いな。」
妬心を余裕の笑みで隠して答えると、少々意地悪な響きで囁かれた。
不意に先ほど覗き見た孫堅と周瑜の戯れが蘇えり、なぞってみたくなった。
カリっと耳朶を食み、首筋に舌を這わせると、殿の唇から甘い吐息が漏れた。
「んんっ・・・・・」
「甘い声で誘われると、食べてしまいますぞ。」
ふわりと唇に触れるだけの口付けを落とすと、
さすがに既視感に気付かれたようで、睨まれてしまった。
「本当は嫉妬していたのだろう!!」
「さあ?どうでしたかな?」
「・・・・まあいい。それよりどうするつもりだ?」
殿を床に押し倒している現状を指摘され、一瞬しり込みしそうになる。
だが、問いかける殿の瞳は誘惑の色を湛えている。
その誘惑に引き寄せられるまま、唇を重ねた。
何度も角度を変えて、貪るように口付けを繰り返す。
「ふっ・・・・あっ・・・・・てい・・ふ・・・」
口付けの合間に甘く呼ばれ、抑えが効かなくなりそうだ。
ああ、困った。今、ここで殿を食べてしまいたい。
殿ご自身が誘うような態度を取られていても、このような場所で口付け以上の行為に及ぶとは予想されていないはずだ。
無理強いするなど論外だが、腕の中の殿を逃がしたくない。
一縷の望みを掛けて、
殿の着物に手を掛けるのと同時に、殿が今一番望まれているであろう睦言を囁いた。
「公瑾とお戯れになった殿の記憶を、ワシとの記憶に塗り替えてしまいたい。」
「それは、楽しみだ。」
「公瑾の魅力など霞むぐらいの、快楽で満たして差し上げますぞ。」
「ふっ、やはりお前の嫉妬は心地良いな。」
満足げに受け入れる孫堅に、程普にかかっていた抑止力が消える。
程普は孫堅の身体を床に縫いとめると、露わになった肌にゆっくりと顔を埋めた。