竹簡を抱えて歩いていた周瑜は、自室の前でばったりと孫策に会った。
少々の後ろめたさを感じながら、何事もなかったように微笑みを浮かべる。
完璧に平静を保てていると思っていたのだが・・・・
「顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
すっと孫策の掌が額に伸びた。
「う〜ん。熱はないみたい・・・・・・だな・・・」
内心動揺しながら、言い訳を考えていると、途中で孫策の醸し出す雰囲気が変わった。
次の瞬間、グイッと腕を引かれ、部屋の中に引きずり込まれる。
「ちょっ・・・伯符!?」
ふわりと身体が浮き、気付いた時には床に押し倒されるような格好になっていた。
周囲に散らばる竹簡と体勢が、先ほどの孫堅との戯れを思い起こさせる。
「公瑾。コレはどこから持ってきた?」
竹簡を示す孫策の、不自然なほど優しい声音に嫌な予感がした。
「書庫から。」
「ふ〜ん。じゃあ、お前、書庫で親父と何をしてたんだ?」
予想以上に的を得た問いかけに、焦りが広がる。
下手な返答をすると事態を悪化させそうで、訳がわからないという顔で孫策を見上げた。
「とぼけるなよ。匂いが付くほど親父と密着しただろ?」
孫策の問いの根拠が匂いだけだと分かり、少々安堵する。
「踏み台から、落ちそうになったところを、文台様が助けてくださったから、その時に匂いが移ったのかも。」
「落ちたって?怪我はないのか?」
「ああ。文台様のおかげで。」
「そっか。でも、お前に他の奴の匂いが付いてるってのは・・・・、うぅ〜〜俺ので塗り替えてやる〜」
首筋に顔をこすり付けられ、パサパサと髪の毛が当たる。
「伯符〜。くすっぐたいよ。」
笑いながら、じゃれ合うように身体をこすり付けていた孫策の動きがピタリと止まり、
いきなり、カリッと耳を噛まれた。
場所が、先ほど孫堅に噛まれたのと同じような気がする。
一瞬、身体が強張ったのが孫策に伝わってしまったのだろうか?
もう一度同じ場所に噛み付かれた。
孫策を見上げると、不機嫌さが滲み出していた。
「こうき〜ん!!助けられただけで、なんで、こんな痕が付くんだよ!!」
「それは・・・文台様が戯れに付けられただけで、大したことは・・・・」
「俺が止めに入れない状況で、戯れを仕掛けてきたってだけで問題大有りだ!!」
「でも、冗談の延長のような・・・・」
「お前は自分の魅力を分かってなさすぎる!!始めは冗談でも、止めに入る者がない状態でなんて危険すぎるぜ。」
「一応、部屋の外に程公が・・・というか、嫉妬さるための様だったから。」
「あ・の・なぁ〜。万が一親父が本気でお前に惑ったら、奴は止めに入らない。いや、入れねぇ。
頼むから、親父や幼平が相手でも油断してくれるなよ。」
ため息とともに、懇願するように言い募られた。
心配の仕方が過剰な気はするが、それだけ愛されているということだろう。
そう思うと、自然と素直になれた。
孫策に首に腕を回すと、ぎゅっと抱きつく。
「ごめん。今後、気をつけるから、許してくれないか?」
「しかたねぇなぁ〜」
「ふふっ、でも嫉妬されるというのも、心地良・・・・んんっ・・・・」
強引な口付けにより、言葉が途切れた。
咎めるように、軽く舌に噛みつかれ、甘い声が漏れる。
周瑜は、孫策の口付けに翻弄されながら、
程普に嫉妬させようとしていた、孫堅の気持ちが少しわかったような気がした。