穏やかな木漏れ日が降り注ぐ心地よい朝だった。

周瑜が着替えを済ませ、髪を整えていると、孫策が部屋に顔を出した。

このような時間に珍しいと、問うような眼差しを向けると、孫策は期待に満ち溢れた表情で口を開いた。

「なあ、午後から遠乗りに行かないか?」

唐突な誘いに驚くが、最近お互いの部屋で過ごすことはあっても、2人きりで遠出をしていないことに思い当たる。

「良い天気だしな。午前中に伯符が今日の執務を終わらせたら、喜んで供をさせてもらおう。」

乗り気な返事を得た孫策は満足げな笑みを浮かべ、周瑜の部屋を後にした。




珍しく苦手なはずの事務処理を黙々とこなしている孫策を視界に入れ、周瑜は自らの仕事を片付けていた。

この調子ならば確実に午前中に終わるな、やればできるのに、普段はさぼってばかりで困った人だと少々呆れる。

だが、自分との遠乗りのために頑張っているのだと思うと、嬉しく感じることも否定できない。

こんなに張り切っているのは、どこか行く当てがあるのだろうかと考えながらも、周瑜は仕事に集中していった。

そして時は過ぎ、周瑜が自分の仕事を終わらせたのと同時に、静けさが破られた。

「あぁ〜。やっっと終わったぜぇ〜!」

伸びをする孫策に合わせ、周瑜も机上を片付ける。

「さっそく、出かけるぞ!付き合ってくれるんだろ。」

早急な孫策に苦笑を漏らしつつも、

「約束だしな。」

と立ち上がると2人は並んで厩へと歩き出した。




「伯符。どこに行くんだ?」

周瑜は歩きながら、何気なく尋ねた。

「着くまで、秘密だ。」

何故かはぐらかす孫策に、期待が膨らむ。

行く先に思いを馳せながら歩いていた2人の背後から騒々しい声が迫ってきた。

「兄上〜」「兄さま〜」「「まって〜!!」」

先を争いバタバタと駆けてきた孫権(UCのイメージで)と尚香(呉Rのイメージで)が、両側から孫策の腕をがっちり掴んだ。

「ちょっと!兄さま、どこに行くつもり?!今度休みができたら、乗馬の稽古に付き合ってくれるって約束したじゃない!」

鬼の形相で尚香がまくし立てると、呼応するように孫権も主張し始める。

「兄上、今度の休みは僕に剣の稽古を付けてくれるんじゃなかったの?」

二人に詰め寄られ戸惑う孫策に尚香がさらに追い討ちをかける。

「まさか・・・忘れたとは言わないわよね?」

両側からぐいぐいと引っ張られ、困り果てている孫策に、周瑜はあきらめて助け舟を出すことにした。

「約束は守るべきだな。伯符。

まず仲謀どのに剣の稽古を付けた後に、姫様とも乗馬の稽古をすれば両方の約束を破らずにすむぞ。

遠乗りは後日でも良いだろう?」

しばらく不満そうな視線を向けてきたが、しぶしぶうなずいた孫策は腕にまとわりつく孫権とともに調練場に消えていった。



周瑜も自室に向かって歩き出し、(私も朝から楽しみにしていたのにな・・・伯符の馬鹿・・)とこっそりため息を漏らした。

そのとき、背後から声をかけられ、周瑜は我に返る。

「公瑾・・。ごめんなさい。」

振り返ると俯きがちに尚香が立っていた。

「姫様?どうしたのです?」

珍しく元気のない姿に尋ねると、相変わらず俯いたまま話始めた。

「嘘ついたの。私達、兄さまと約束してなかったの。いつも兄さまは公瑾とばかり出かけるから悔しかったの。

一日ぐらい私達に付き合ってくれてもいいじゃないって思ったんだけど。公瑾がそんな表情するなんて・・・」

尚香の存在に気付かずにため息を漏らしたことを後悔しつつも、自身の美貌を最大限生かし優しく微笑む。

「いいんですよ。私こそ姫様方の寂しさに気付かず申し訳ありません。そのような顔をしないで、この後楽しんでくださいね。」

周瑜の微笑みになぜか敗北感を感じつつも、心のつかえがとれた尚香は笑顔を取り戻し走り去っていった。





周瑜は自室に戻り、しばらくは書簡を眺めていたが、いつの間にか転寝をしてしまった。

不意に、心地よい感触がして意識が浮上する。

目を開けると、机に腰掛けた孫策が髪に触れていた。

「すまねぇ。公瑾。でも、俺はお前との約束も破る気はないぜ。」

孫策は完全に覚醒していない周瑜の意識を自身に向けようと髪を引きせ、視線を絡める。

瞳を瞬かせる周瑜に、更に言い募った。

「近場でもいいから、出かけようぜ。なあ。いいだろう?」

「暗くなる前に戻れる場所にしてくれよ。」

周瑜は必死な孫策に笑みを零し、了承の意思を示したのだった。




2人は近くの丘に着くと、馬を木につなぎ、寝転んだ。

沈み行く夕日が周瑜の肌を赤く染めている。

孫策はしばらく、夕日と周瑜を眺めていたが、周瑜を染める夕日に苛立ちを覚え、遮るように覆いかぶさる。

そして、見上げる周瑜に引き寄せられるように、口付けを降らせていった。












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