「では、残り4名で第二ゲームを開始するぞ。」
ゴゾゴゾと孫堅が箱を探り、出題者を決めるくじを引く。
「え〜。次の出題者は孫策だ。」
「ふっ、俺か・・・・」
ゆっくりと前に歩み出た孫策は、ぐるりと3老将を見渡す。
そして、最後に孫堅に視線を合わせると、紫色の瞳をじっと見つめたまま口を開いた。

「親父は、孫文台は美しい。」

「おっ、おい・・・策・・いきなり、何だ!!」
「出題だ。イエス、ノーで回答可能ならば何でもいいんだろう?グダグダ言わずにさっさと進めろよ。」
予想外の出題内容に、動揺を隠せない。
面と向かって、美しいなどと言われたことがないから途惑ってしまう。
ただの問題だ。内容など考えるなと必死に言い聞かせる。
「で、では・・・俺が美しいと思う者はイエスを。美しくないと思う者はノーを投票してくれ。制限時間は一時間と」
「ちょっと、待てよ。」
開始を宣言しようとした孫堅を遮るように、孫策が制止の声を上げた。
不敵な笑みを浮かべると、投票箱に歩み寄った。
「一時間も必要ない。俺の答えはもう決まっている。」

「答えは、ノーだ!!」

老将達に見えるようにノーの投票用紙を掲げると、そのまま箱へと投票してしまった。
そして、イエスの投票用紙をビリビリと破り捨ててしまう。
「何をやってっ!?時間はまだ・・・・」
孫策の奇行に呆気に取られていた黄蓋が、我に返って問いかけるが、孫策から余裕の笑みは消えない。
「いらないな〜時間なんて。」
孫策は黄蓋から、隣でこちらを見据えている程普へと、挑発するように視線を流した。
「おい、徳謀。勝つのは、お・れ・な・の!!」
「馬鹿なっ。」
「ならば、お前達は選べるのか?”親父は美しい”という質問に対して”ノー”という答えを。」
目を瞠る3老将達の表情を順番に堪能する。
「俺を勝たせたくなければ、誰か一人は、親父は美しくないと言う必要があるわけだ。なぁ、分かるだろう?」
孫策は、言葉に詰まる程普、黄蓋、韓当に、勝利を確信したように笑みを浮かべた。
「断言する。お前達はノーに入れられない、だから、勝つのは俺だ!!」
「「ひ、卑怯ですぞっ!!」」
声をそろえて抗議する黄蓋と韓当を無視し、無言で敵意を込めた視線をおくる程普に歩み寄った。
程普のみに聞こえるように、耳元で囁く。
「お前は、卑怯だなんて寝ぼけたこと言わねぇよな。」
「どのような策を弄そうとも、殿の望まれぬ結果には、このわしがさせませぬぞ。」
「このゲーム、褒美の多数決から、支配しているのはこの俺だと、気付いているだろう?」
「殿はわしがお守り致す!!わしがいる限り、そうそう思い通りになると思いますな。」
「ふっ。お前には無理だ。俺は、欲しいものは必ず手に入れてみせる。褒美は・・・親父の唇は俺のものだ!!」
バチバチと2人の間で激しい火花が散る。


「お〜い。お前達。すでに一票入っているが、制限時間一時間で、ゲームを開始するぞ?」
険悪な雰囲気を和らげるように、孫堅が声を掛けた。
「ああ、いいぜ。俺の勝ちは決まっているけどな。」
そう返すと、孫策は程普から離れる。
ゆっくりと壁に凭れ掛かかり、余裕の態度だ。
孫策の自信がどこから来るのか理解に苦しむが、
老将達の質問の内容にみせるこだわりも予想以上だ。
奴等が俺を慕っていることは、分かってはいるが、”美しくない”と言いたくないという理由で、
孫策にみすみす勝ちを譲るなど、本末転倒だと思うのだが・・・・
俺からの褒美が欲しいならば、大事の前の小事と割り切れば良いのに。
だが、それを分かっていても出来ない彼等も、愛しくないといえば嘘になるな。
「・・・・・まあいい。それでは、始め!!質問内容はあくまで仮初だ。惑わされることのないように。」
無駄な予感がしながらも、余計な一言を付け加えていた。


お通夜のような雰囲気で、顔を付き合わせていた老将達が、制限時間ギリギリで投票を終えた。
3人とも、顔色が冴えない。
なかでも、程普の顔色は最悪だ。
心配しつつも、孫堅は開票を始めた。

孫策・・・ノー
黄蓋・・・イエス
韓当・・・イエス

結果は予想通りのもので、孫策は完全に勝利を確信して薄く笑みを浮かべている。
最後の票を手に取った瞬間、程普の身体が緊張に強張ったのを感じた。
孫堅は不思議に思いつつも、票を開いた。
「最後の票は・・・・ノーだ。」
孫策、黄蓋、韓当が驚きに目を瞠る中、程普の身体がグラリと傾いだ。
隣にいた黄蓋が咄嗟に支えるが、口元を押さえ、苦しそうに喘ぐばかりだ。
「おい!!どうした?」
孫堅が、駆け寄り声を掛けるが、答えはない。
ヒュッ、ヒューッと呼吸音がおかしい。
まさか、過呼吸か!?
「馬鹿!!落ち着け!!ゆっくり、息を吐いてみろ。」
背をさすりながら呼吸を整えるように促すが、収まる気配がない。
更に悪化する程普の顔色に焦りを感じた孫堅は、躊躇うことなく、己の唇で程普の唇を塞いでいた。
「とっ、殿っ!!そのようなことを!?」
驚き、制止しようとする黄蓋を押しとどめ、口付けながら、宥めるように程普の背をさする。
しばらくして、落ち着きを取り戻した程普の手が孫堅の肩に掛かり、そっと身体を引き離した。
「大丈夫なのか?」
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
「そうか、良かった。」
完全に収まった様子に、ホッと安堵の息を付いた。
だが、ノーに投票することがそんなに負担になってしまったのだろうか?
このような事態になるとは、提案した俺が軽率だったな。
部下達に騙し合いをさせるようなゲームはするべきではなかったんだ。
もう、終わりにしよう。

「皆、すまない。言い出した俺が軽率だった。ゲームは中止にしよう。」
殿がそうおっしゃるならばと、黄蓋と韓当は頷いたが、孫策から不満が上がる。
「ふざけるなよ。こんな中途半端で、しかも勝者以外への接吻を見せ付けられて、納得できるわけがない!!」
己の軽率さを反省中だった孫堅は、
八つ当たりだと分かっていても、孫策の言い草にイライラとしてしまう。
「ならば、これで不満はないだろう?」
孫策に歩み寄り、不機嫌さを滲ませた声音で言い放つと、孫策のマントの結び目を掴む。
唇に一瞬触れるだけの接吻を送ると、突き放すように身体を引き離した。
「はぁ?この程度で俺が満足すると思うのか?」
再び身体を引き寄せ、口付けようとする孫策の唇を孫堅が掌で押しとどめる。
「褒美は、俺からの接吻だ。お前からの接吻を受ける謂れはないな。」
拒絶の声音は冷たく、取り付く島のない孫堅の態度に、孫策は負けを悟った。
己の策が、身体を張った程普に止められたということか。
チッと舌打ちを漏らし、覚えていろよと程普を睨みつけると、
不満も露わな扉の開閉音とともに、孫策は退出していった。


孫堅が3老将を振り返ると、期待を込めた2つの視線を感じた。
黄蓋と韓当が、自分達にも接吻が欲しいと言いたくても言えないといった様子で見つめている。
しょうがないな。と表情を緩めると、まずは黄蓋に歩み寄った。
両手て頬を包み、チュっと接吻を送る。
「ありがとうございます!!」
と頬を染めて礼をいう黄蓋の唇に更なる口付けを促すように舌を這わせた。
スルリと腕を頑丈な首に廻すと、黄蓋の腕が孫堅の腰を引き寄せる。
「ああ・・・殿・・・」
感極まった呟きとともに、再び唇が重なリ合う。
黄蓋は程普と韓当の存在も忘れ、孫堅に夢中になっていた。
「んっ・・・こう、が・・い・・・・・・・」
口付けの合間に、字を呼ばれ、気持ちが益々盛り上がる。
焦れた韓当から声が掛かるまで、黄蓋が止まることはなかった。

「殿・・・・私にも・・・・」
遠慮がちに発せられた韓当の声に、我に返ったように、黄蓋が口付けを解いた。
黄蓋の腕から抜け出した孫堅が、笑みを浮かべて韓当に近づく。
韓当は口付けの余韻に濡れた唇に誘われて、手を伸ばした。
唇をなぞった指をペロリと舐められ、ドッキリと胸が高鳴った。
「ふふっ。待たせたな・・・」
薄く開き、誘う孫堅の唇に、韓当はそっと唇を重ねた。


孫堅の唇を堪能した韓当が、口付けを解くと、孫堅は改めて3老将を見渡した。
口付けの余韻に上気した表情の黄蓋、韓当とは対照的に、
程普が、大きな身体を縮め、立ち尽くしている。
「わしの不徳で、殿の興を削いでしまい・・・申し訳ございませぬ。」
「お前が悪いのではない。気にするな。」
「ですが・・・・」
「よし!!では、次は、酒の席で皆が楽しめるゲームにしよう!!」

「は・・ぁ???」
「と、殿ぉ〜!?」
「つ、次とは・・・・・?」

少し前まで、軽率だったと絶賛反省中だった孫堅の、前向き過ぎる発言に、流石の3老将も戸惑いを隠せない。
「次は、君主様ゲームなどどうだ?酒が入ればきっと盛り上がるぞぉ〜」
?????????
またもや聞いたことないゲームの提案に、頭の中を疑問符で埋め尽くしながらも、
殿が楽しそうだから、まあいいか!!っと付き合う気満々な3老将達であった。














蛮勇孫策に、秋山さんのセリフを言わせて見たくなって始めてしまいましたv
最初は、蛮勇孫策に一人勝ちさせる予定だったのですが、
予想以上に、程普が頑張ったみたいです(笑)


いつか、王様ゲームならぬ、君主様ゲーム??が展開されてても、笑って許してください!!









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