周瑜が孫策の訃報を受けたのが2日前。
とる物も取りあえず駆け付けた。
馬を駆った2日間、どうか誤報であってくれと願っていた。
その願いも虚しく、認識するのを拒んでいた現実が目の前にある。
横たわる孫策。
その体は冷たい。
仕方がない、すでに2日前から命の息吹は失われているのだから。
「伯符・・・・」
呼んだら、目を開けて微笑んでくれるのではないか?
儚い望みが浮かんで、消えるごとに絶望が澱となる。
孫策の枕もとに座したままずいぶんと時間がたった。
だが、最後の逢瀬を邪魔する者はいない。
周瑜の手には、小瓶が握られている。
それは、先ほど孫権から渡されたものだった。
孫策から私に渡すように頼まれたと言っていたが、果たして本当だろうか?
小瓶の中身は想像に難くない。
きっと、毒薬・・・この五体から命を奪う案内人。
それを、孫策が私に?
暗い死出の道の不安に道連れをもとめたのか?
ありえない。
ならば、なぜ?これが私の手元に来たのだ?
孫権にとって、これからの呉にとって私が邪魔になるのか?
新たに主君と仰ぐべき孫権から賜った毒杯ならば、飲み干してみせようか。
いや、自分の弱さを棚に上げてはいけないな。
この小瓶を渡されたとき、理由などどうでも良かった。
これは、ただのきっかけに過ぎない。
この誘惑に身を委ねたのは私の弱さ。
小瓶をギュッと握りしめ、孫策を見つめる。
孫策に出会ってから、今までの記憶が駆け巡った。
「人は臨終の際に心が浮き立つという。
看取る者はそれを、死の前の稲妻という。
どうして、これを稲妻と呼べるのだろう。」
心の中は、どこもかしこも孫策で一杯だ。
こんな、幸福な稲妻など知らない。
孫策もこの稲妻を味わったのだろうか。
「ああ・・・恋人よ、私の半身。
命の密を吸い取った死神も、君の美しさにはまだ力を及ぼしてはいない。」
軍神と称されたその雄々しさは、そのままだ。
私が愛した姿のまま、物言わぬ遺体となった孫策が横たわる。
「目よ。これが見おさめた。」
感情が高ぶり、涙でかすみそうになる目を凝らして、孫策の姿を映す。
「腕よ。抱きしめるのもこれが最後。」
孫策の胸に頬をよせ、ぎゅっと抱きしめる。
だが、もう二度と抱き返してくれる腕の強さを感じることはできない。
力強く刻む胸の鼓動を、子守唄とすることもない。
「唇よ、息吹の扉よ。正当な口づけで捺印しよう。
全てを買い占める死神との無期限の売買契約に。」
周瑜は指で孫策の唇をゆくっりとなぞる。
そして、まるで神聖な儀式を行うかのように、唇を重ねた。
「さあ、苦い導き手、嫌な味の案内役。今こそこの身を砕いてくれ。愛する伯符のために・・・・」
周瑜は小瓶の中身を一気に飲み干した。
予想していた苦痛は襲ってこなかったが、次第に体が重くなる。
まるで眠りの世界に急速に引きずり込まれるようだ。
朦朧とする意識の中、周瑜は孫策に覆いかぶさるように、その身を横たえる。
「こうして口づけしながら私は・・・・」
孫策の唇の感触を最後に、周瑜の意識が途切れた。
つづきへ
我が永遠のアイドル様が演じてたロミオが、あまりにも素敵だったので、
周瑜にそのセリフを言わせてみたくなってしまいましたw
周瑜がロミオならば、ジュリエットは孫策かなぁ〜と。
策瑜ならば、普通は逆だろ?とか・・・・
ロミジュリといえば、一番有名な窓辺?のシーンじゃないんだとか・・・
その辺は、あまり気にしないでください。