孫策が孫堅と一緒に、周瑜の部屋の近くまで来たとき。
部屋の扉が開き、周瑜が出てきた。
すでに、戦支度を整えた姿で、遠目には、体調の不良を感じさせない。
孫策は足早に、周瑜へと近づく。
「公瑾、なんだ?その格好は。」
「敵がせまっているのだろう?防衛に出ねば。」
「・・熱は下がったのかよ?」
孫策が、周瑜の額に触れようとすると、すっと身を引かれた。
「ああ、大丈夫だ。」
だが、その言葉を素直に信じるわけにはいかない。
俺の手を避けたってことは、熱は下がっていないに決まっている。
遠目には、不調を感じざせない出で立ちだったが、近くで見ると顔色が悪い。
こんな状態の周瑜を出陣させたくない。
だが、どう説得したものか・・・黄蓋より、数倍手ごわそうだ。
「ちょっと待てよ。公瑾。」
孫策は周瑜を引き留めるために、腕を掴んだ。
服を通してもわかるほど、その腕が熱い。
熱が下がるどころか、下手したら上がっているんじゃないかと思う。
孫策が周瑜を見ると、すっと眼を逸らされた。
「・・・・本当に、大丈夫なんだ。」
「この、嘘つきめ。」
「嘘ではない。この程度の熱、支障はないから心配しないでくれ。」
周瑜が掴まれているのとは逆側の手を、孫策の手に重ねた。
「大丈夫だから・・・」
周瑜が孫策をなだめるように、囁く。
このまま話していては、逆に丸め込まれてしまいそうだった。
「だめだ。」
「ちょっ、伯符!?」
孫策は、周瑜の腕を掴んだまま部屋へと入る。
部屋の中に入ると心配顔の小喬と周姫と目が合った。
軽く頷くと、小喬のほうは少しほっとした表情を見せた。
周瑜を引きずったまま、ずんずんと部屋の中を進む。
「伯符、放せ。」
「うるさい!!病人は大人しくねていろ!!」
寝台までたどり着くと、周瑜をその上に押し倒した。
起き上ろうとする、周瑜を強引に抑え込む。
「敵が迫っている時に、そんな悠長なことしてられない。」
「今のお前は、足手まといになるんだ。」
そう言うと、周瑜の抵抗が止んだ。
「そうなるつもりはない。折角、城にいる2コス分の弓兵を遊ばせておくのはもったいないだろう?」
「・・・・・・・」
抵抗が止んだから、大人しく寝ている気になったと思ったが甘かった。
力では敵わないから、再び舌戦に引き戻す気らしい。
「絶対に無茶はしない。隊の後方で指揮を執るだけだ。」
「だめだ。俺と親父の隊だけで十分だ。俺を信じろよ。」
「伯符と文台様は強い。だからと言って、過信は禁物だ。」
「じゃあ、俺の援護兵としてお前の弓兵を連れていく。それなら無駄にならないだろ?」
「槍兵と一緒に動く弓兵が役に立つとは思えないな。」
何を言っても、反論が返ってくる。
このまま話していたら、確実に周瑜に丸め込まれてしまう。
「私の隊は私自身がひきいて・・・・・」
孫策は周瑜に覆いかぶさると、唇同士が触れそうな位置まで顔を近づけた。
今まで、流れるように続いていた周瑜の言い訳がピタリと止まった。
孫策はそのままの位置で、囁く。
「これ以上、言い訳を重ねる口は塞いじまうぞ。」
「伯符・・・ずるい。」
「黙れよ。それとも、接吻が欲しいと誘っているのか?」
重ねて脅すと、周瑜はやっと口を閉じた。
小喬はともかく周姫の前での、親密すぎる触れ合いを周瑜は嫌う。
だから、この脅しは効果絶大なはずだ。
まあ、周姫がいなきゃ、実際に唇を塞いで黙らせてやったけどな。
しばらくして、覆いかぶさっていた身体を起こすと、周瑜に睨まれた。
その視線を正面から受け止め、ゆっくりと言い含める。
「大人しく寝ていると言えよ。言わないなら、寝台に縛り付けるぞ。」
周瑜は無言で首を左右に振り、否を示す。
「そうかよ・・・・・小喬、手頃な紐はあるか?」
「はい。ここに。」
小喬が差し出した紐を手に、孫策は再度周瑜に迫った。
「いいか?これが最後の機会だ。大人しく寝ていると言え!!」
周瑜は、孫策の本気を感じ取り、内心焦っていた。
何か突破口はないかと周囲を見渡す。
孫策の背後では、小喬と周姫が2人のやりとりを固唾をのんで見守っている。
小喬は、孫策に任せて口を出す気はなさそうだ。
周姫は、何か言いたそうだが、雰囲気に飲まれて言い出せない様子だった。
孫策は、忘れているようだが、孫堅が部屋の入口に凭れかかって、こちらを見ていた。
だが孫堅も楽しそうに、傍観しているだけで、助け舟は出してくれそうにない。
でも、4.5コス対8コスだなんて不利な戦に、だまって孫策を送り出すことなんてできない。
なんとか、説得しなくては・・・・・
つづきへ