「静粛に!!では、改めて少数決を開始するぞ。」
ゴゾゴゾと箱を探っていた孫堅が、一枚の紙を取り出した。
紙には参加者の名が書いてあり、このくじを用いて出題者を決定するのだ。
「え〜。まずは韓当、お前が出題してくれ。」
指名された韓当に、皆の視線が集まる。
「・・・・二者択一になる問題なら、何でもよいのですな?」
「ああ。質問の内容は問題ではない。いかに少数派に票を投じるかが重要なのだからな。」
「では・・・特技の中で一番使えるのは、”防柵”だ。」
「お〜良い問題だな。一番使える特技が防柵だと思う者はイエスを、
い〜や、復活やその他の特技の方が使えると思う者はノーを投票してくれ。
制限時間は1時間とする。それでは始め!!」



孫堅の開始の合図と共に、ざわざわと探り合いが始まる中、雄飛孫策は周瑜に助けを求めていた。
「なぁ〜公瑾。負けるにはどうすればいいんだ?」
「伯符は負けたいのか?」
「当たり前だろ!!」
「いいじゃないか。場所が限定されていた訳ではないから、額にでも頬にでも口付けて頂けばいい。」
「い〜や〜だ〜。もう、餓鬼でもねぇし、こっ恥かしいだろ。」
本気で嫌そうに顔を顰める孫策が可笑しくて、思わず周瑜から笑みが零れる。
真剣に負けを望まなくても、このゲームで負けるのは簡単なはずなのだけれど・・・
「笑うなよ!!それと、お前も絶対負けろよ。俺の目の前で堂々と浮気なんかしたら許さねぇからな!!」
褒美での接吻すら、伯符の目には浮気に映るのかと、少し驚く。
「2人で確実に負けを掴める方法など簡単だ。協力者が一人以上いればいいのだから。」
「???協力者???」
訳が分からないといった様子の孫策に、周瑜は簡単に説明を試みる。
「伯符、このゲームの勝者は何人だ?」
「1人か2人だ。」
「じゃあ、3人で必ず同じ答えに投票したら、勝ちに辿り着くことはないと思わないか?」
「おっ、なるほどな。流石だぜ公瑾!!っで、誰に頼むんだよ。」
「幼平に・・・・・だが・・・・」
歯切れの悪い周瑜の返答に、孫策は思わず顔を覗き込んだ。
簡単だと言っていたにも関わらず、懸念事項があるのだろうか?
「どうした?何か気になんのか?」
「ああ・・・どうしようもなく、違和感が・・・・」
「何だよ。言ってみろよ。」
「今は、確信がないから、言いたくない。でも・・・伯符に頼みがあるのだけれど。」
「俺に??」
「ああ、この場にいる全員・・・いや、幼平以外の話を聞いて来て欲しい。」
「話って何を聞くんだ?」
「多数決で何と書いたかと、褒美を得たいという意気込みの程度を。」
「分かったぜ。とりあえずは情報収集ってことだろ。」
よし、任せとけ!!と意気込んで老将達の下へと向かう孫策を見送ると、周瑜は、周泰へと近づいていった。



周泰を丸め込んで協力を取り付けた周瑜は、壁を背に参加者達の様子を観察していた。
老将達にからかわれながらも、情報を引き出そうと懸命な孫策の姿を見守る。
ふと、孫策の視線が周囲を巡り、周瑜を捕らえた。
視線が重なった瞬間、ニカッと笑みを浮かべると、意気揚々と周瑜の元へと戻ってきた。
「首尾はどうだった?」
「ばっちりだぜ〜!!でも、聞いて驚くなよっ、皆マジで親父からの褒美を狙ってるみたいだ。
俺に遠慮しつつも、照れつつも、冗談っぽく語ってても、皆、目がマジなんだよ・・・。」
「それは・・・・文台様も魅力的なお方だからな。
だが多数決で、文台様の〜ではなく、金一封を望んでいた方がいたはずだろう?」
周瑜は孫策の”皆”という言葉が引っかかっていた。
文台様からの何がしかを願う内容の並んだ多数決で、明らかに浮いた一票があったはずだ。
始めは、幼平かと思ったが、”大殿との手合わせ”と書いたと言っていた。
ならば、誰が、どのようなつもりで書いたのだろう?
「ん?ああ、そりゃ、徳謀だったぜ。
褒美を頂けるだけで光栄だとか言ってはいたが、珍しく、乗り気じゃなかったんだよな。」
「それは、意外な・・・」
そう呟いたきり、思考に沈み始めた周瑜の横顔をしばらく堪能していたが、一向に浮上する気配がない。
俺をほったらかしで、どこを彷徨っているのやら。
お前も親父のことが気になるのかと、疑ってやるぞ!!
僅かな嫉妬を込めて、孫策は周瑜の髪を軽く引っ張り、己に注意を向けさせる。
「まだ、確信がないから、俺には言えないのか?」
「いや・・・・だが・・・・」
「言いたくないならいいぞ。それより、すっげ〜嬉しいことに気付いたんだけどなぁ〜。」
ニヤニヤと覗き込む孫策に、嫌な予感がした。
「何に?」
「お前の望みにv」
「それは・・・他に、思いつかなかったんだ。」
「そっか、そっか〜。俺と共に過ごす時間以上の望みを思いつかなかったってことだろv」
「・・・伯符の、好きなように解釈してくれて構わないよ。」
平静を装って応える周瑜の目元がうっすらと赤く染まっている。
気付いた孫策に満足げな笑みが浮かんでいた。



「残り時間3分だぞ!!」
孫堅の声を切欠に、武将達が続々と投票を始めた。
投票後、箱に向かって拝む者や、投票の手が緊張に震えている者もいて、
たかがゲームのノリではなくなっている。
制限時間ギリギリで全員が投票を終え、期待を込めた視線が集まる中、孫堅が開票を始めた。
一枚読み上げられるごとに、一喜一憂する武将達のざわめきに室内が満たされる。
9枚まで開票された時点で、武将達の熱気は最高潮に達していた。

イエス・・・雄飛孫策、周瑜、周泰、呉景、朱治
ノー・・・・蛮勇孫策、程普、黄蓋、韓当

残る祖茂の票がイエスならば、ノーの勝ち、ノーならば引き分けでやり直しだ。

孫堅が最後の票を殊更ゆっくりと開く。
「祖茂は・・・・・イエスだ。」
その瞬間、武将達の歓喜と落胆の叫びが交錯した。
黄蓋と韓当は手を取り合って喜び、朱治は地団駄を踏んで悔しがっている。
呉景と祖茂も落胆を隠せぬ様子だ。

「イエス6票、ノーが4票で、ノーに投票した者が勝者だ!!
敗者は退出してくれてかまわんぞ。早速残りの4名で第二ゲームを始めよう」

お前等がんばれよ〜っと気軽に手を振りながら雄飛孫策、周瑜、周泰はあっさりと退出していく。
朱治、祖茂、呉景は何度も何度も未練がましく振り返りながら、トボトボと退出していった。
そんな中、蛮勇孫策と程普の間では密かに牽制の火花が散っていた。

ふっ、俺に勝てると思うてか?

殿はわしがお守りいたす!!


第二ゲームを制するのは、蛮勇孫策か、それとも程普か。

更に熱く激しい、孫堅の接吻争奪戦、第二ゲームの幕が開いた。





次へ














inserted by FC2 system