翌朝、孫堅は窓から差し込む日の光で目を覚ました。

腕の中の周瑜はまだ目覚める気配はない。

昨夜はしたたかに酔った上での行為だったが、後悔はしていない。

脳裏に浮かんだ息子の顔と、周瑜の躊躇にも、思いとどまることが出来ぬほど周瑜を欲したのだから。

後悔はないが、同衾した事実を他の者に知られるのは、さすがにまずいとは思う。

だが、寝ているうちに寝台を抜け出すことも、寝ている周瑜を起こすこともしたくなくて。

困ったなぁ〜などと、思いながら寝顔を見つめていた。

きっと起きたら、周瑜には幾ばくかの後悔はさせてしまうはずだから、

少しでも長く、眠りの世界に留まっていてほしいと思う。

「どうしたものか・・・・・」

心のなかで思ったはずのことをつい、こぼしてしまう。

その声に反応したのか、周瑜が目を覚ました。

「おはよう。公瑾。」

目覚めた周瑜に頬笑みかけたが、じっとこちらを見つめるばかりで反応がない。

「どうした?気分がすぐれぬのか?」

「すみません。・・・少々頭が混乱して・・・・・」

こめかみを押さえる仕草に、受け入れられないほどの罪悪感を与えてしまったのだろうかと心配になる。

「伯符と戦場にいたような気がするのですが・・・・」

だが、続いた周瑜の言葉に、違う可能性に思い至った。

だとしたら・・・・最悪の時機だ。

この状況、どうやって説明すべきか迷う。

「もしかして、記憶が戻ったのか?」

「それは・・・私が記憶を失っていたということでしょうか?」

「ああ、お前は約一月前の戦で被雷して記憶喪失になっんだが・・・では、戻ったのだな!!」

「はい。そのようですが・・・・」

周瑜の視線が揺れる。

きっと、この状況に合点がいっていないに違いない。

事実を伝えるか、ごまかし通すか・・・・

「あの・・・文台さま・・・伯符はどうしていますか?」

遠まわしな周瑜の質問の意図を悟る。

苦しいかもしれないが、ごまかし通す覚悟を決めた。

俺さえその姿勢を貫けば、気づいているとしても周瑜は乗ってくると思う。

その方が、すべてが上手くいくと判断するはずだ。

「昨日から盗賊狩りに出ている。数日中にはもどってくるだろう。早く、記憶が戻ったことを伝えてやりたいか?」

「それもありますが・・・・」

「ふふっ。お前が記憶喪失の間、策はまるで雛を守る親鳥のようで微笑ましい限りだったぞ。」

「・・・・・・」

「ああ、昨夜は、お前も策と初めて離れたから寂しそうに見えたな。

覚えてないかもしれんが、俺が子守唄をうたって寝かしつけやったんだ。よく寝れただろう?」

周瑜に質問の隙を与えないように、次々と畳みかけた。

子守唄!?若干無理があるだろ〜〜っと自分に突っ込みたくなったが、余裕の笑みは崩さず言い切った。

「それは、ご迷惑をおかけいたしました。」

「いや、お前の可愛い寝顔を堪能させてもらったから、役得だ。」

そう言って、周瑜の頬に軽く接吻をした。

性的な意図を全く感じさせない、親が子供にするのと同質の接吻に、やっと周瑜に笑みが浮かんだ。

「文台さま・・・でも、子守唄の件は恥ずかしいので伯符には秘密にしてください。」

「では、二人だけの秘密にしよう。」

なんとか、上手くまとまった話に、こっそり胸をなで下ろす。

癖のように、周瑜の髪をクシャクシャっと撫でると、寝台から抜け出した。

部屋を出るまでの間、背に周瑜の視線を感じて緊張したが、ギクシャクせずに歩を進められたと思う。

部屋を出て、一人になると昨夜の甘い記憶が蘇る。

鮮明に残っている、周瑜との記憶は、自分だけのもの。

共有できないのが少々寂しいが・・・・これでいいのだと自分を納得させた。





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