嫌な予感ほど、良く当たるものらしい。

俺の存在に誘いを躊躇う黄蓋から、拗ねたように視線を外した親父と目が合った。

「お前が嫌ならば、策でもよいぞ。」

「はぁ??」

な、何をいいだすんだよ、この酔っ払いがぁ!!         蛮勇孫策の場合

思わず、目を瞠り、固まってしまった。

杯が、コトリと音を立て、手から滑り落ちる。

本気ではないとは、分かってはいるが・・・・冗談としても、性質が悪るすぎるだろう。

「「と、殿ぉおおお〜!!」」

だが、俺以上に、焦りを見せた程普と黄蓋が口々に諌め始めた。

「さすがに・・・若は、駄目ですぞ。」

「いけませぬぞ。実の親子でそんな、破廉恥な!!」

ああ、まずい・・・・・うっかり若が殿の魅力に・・・・・なんてことが、絶対無いとは言い切れぬ!!

殿の魅力を侮ってはならん。

うをぉおおお〜どうすればいいんじゃぁ〜!!


顔を引きつらせる孫策と、おろおろと途惑う程普と黄蓋を眺めながら、孫堅は一人楽しんでいた。

己の発言で、予想通り振り回される様を堪能する。

さすがに、息子を誘うような言動は、まずいと分かってはいても、酔った頭では歯止めが利かなかった。

それに・・・・ありえない要求を突きつけられた後ならば、

普段は躊躇する願いでも、大したことなく感じて、うっかり聞いてしまうものだろう?

ふふっ、読み通りに行くと良いのだがな。

再び黄蓋に視線を戻し、じっと見上げる。

「策でもよいが・・・・・お前の方がよい・・・・」

「あっ・・・との・・・・」

若を誘われるぐらいならば・・と心が揺れる。

揺れる心に付け入るように、魅惑的な瞳が誘う。

無意識のうちに、酒を口に含んでいた。

ふらふらと引き寄せられるように、殿に近づくと、迎えるように薄っすらと開いた唇に、そっと唇を重ねた。

酒を流し込むために舌を差し入れる。

充満する酒の香りと、殿の口内の熱さに眩暈が襲った。

コクリと酒を飲み下した殿が、更に求めるように舌を吸う。

酒が喉の奥に消えたのをきっかけに、唇を離そうとしていたのを見越したように、殿の舌が絡みつく。

もっと、と求められる仕草に、若の前で・・・と唯一残っていた躊躇いが吹き飛んだのを感じた。

「ふっ・・・んん・・・」

歯列をなぞり、上顎をくすぐると、鼻に抜けるような声が漏れる。

酒を飲ませるという当初の目的など忘れ、ただ殿の熱を味わっていた。

「はぁ・・・・っ・・・・」

堪能し尽して唇を離すと、殿の唇からため息が漏れた。

「あぁ・・・黄蓋・・・・」

「殿・・・・」

口付けの余韻で赤く濡れた唇が扇情的だ。

「ふふっ。美味かったぞ。お前の酒は極上だ。」

ペロリと唇を舐める仕草に、視線が引付けられ、鼓動が激しく鳴り響く。

溢れ出す殿の色気に当てられ、襲い掛かってしまわぬよう、己を抑えるだけで一杯だった。

余裕のない黄蓋を牽制するかのように、程普が孫堅の頬を撫でる。

意識を己に向けさせると、杯に酒を満たした。

「まだ、飲み足りぬでしょう?」

そう問いかけると答えを待たずに酒を含んだ。

「ああ・・・まだ、足りぬ。」

望まれるままに、唇を重ね酒を流し込む。

だが、酒が喉の奥に消えても、更にと求める孫堅を振り切るように唇を離した。

「・・・ていふぅ〜」

不満を漏らす孫堅の唇の端に掠めるだけの接吻を落とす。

「殿・・・若が固まっておりますぞ。ご自重くだされ。」

そこには、杯を取り落としたままの格好で固まっている孫策がいた。

「・・・・・・・忘れていてたぞ・・・・」

やっと、程普の膝から起き上がった孫堅は、孫策へと近づく。

パンッ!!と呪縛を解くように手を叩くと、眉をしかめてこちらを見つめる孫策へと苦笑を浮かべた。

「全て、冗談だ・・・気にするな。」

苦しい言い訳とともに、取り落とした杯を持たせてやる。

「・・・ああ・・・・・そう・・・だよなぁ〜」

無理やり納得したらしい孫策の杯を酒で満たす。

だが、一気に飲み干すと、孫策は立ち上がってしまった。

「お、俺はもう眠くなっちまったみたいだ・・・・・・邪魔して悪かったな!!」

そう言い捨てると、これ以上の精神的被害を被る前にと一目散に逃げ出した。




・・・・・・・・・・

程普と黄蓋は、孫策の速やかなる撤退にさすがにやりすぎだろうと、後悔していた。

「殿・・・まずいですぞ。完全に誤解されておりますな。」

「ん〜だが、奴ももう大人だ、多少なら問題ないだろう。」

「いや、確実に・・・体の関係があると誤解されておりますぞ。」

「・・・・・・・ならば、誤解を誤解でなくしてみるか?」

またもや、不用意に誘いを掛ける孫堅に、必死で理性を総動員させて踏みとどまる。

ただでさえ、酔って赤く染まる肌に、熱を帯びた瞳に目が眩んでいるというのに。

わし等を試すにしても・・・・この状況は危うすぎますぞ。

「殿・・・・わ、わしを抱いてくださいますのか!?嬉しいお申し出なれど・・・

この徳謀、心の準備ができておりませぬ・・・////////」

ポッと頬を染め、大きな体で恥らう姿に、ぽかぁ〜んと孫堅と黄蓋があっけに取られている。

外したか?っと程普が2人を窺がうと、黄蓋と目が合った。

ふふっ・・・わぁっははは〜

黄蓋の豪快な笑い声に、沈黙と危うい雰囲気が吹き飛ばされる。

ほっと胸を撫で下ろした程普が、孫堅を見ると少し不満そうに睨まれた。

そして、健全な雰囲気に戻った室内で、再び酒宴が再開される。

だが、殿の目はまだまだ、危うい駆け引きをお望みな様で。

今宵は長い夜になりそうだと、程普は気合を入れ直していた。






つづきへ





別に、パパは老将達を試しているわけではなく・・・・ふつ〜に誘っていらっしゃいます。
自分のことを慕っくれる、彼等は皆、一様に愛しくて、
俺を抱きたいと望むならば、我慢せずともよい・・・って感じで。
でも、老将達はいざ誘いに乗ってしまったら、パパが困ると思っているの。
だから、己の欲望を満たすよりも、殿のために、我慢しちゃうのvV
パパはそんな誤解も気付いているけど、必死に誘惑をかわそうと努力する彼等も愛しくてはっきりとは言わない感じ〜
そんな、微妙なバランスが楽しい今日この頃vV

とは言っても、2人じゃなく、単独で誘われたら・・・すでに危ういと思う。
でも、大丈夫、いざ狼になっちゃっても、パパはきっと優しく受け入れてくれるからさvV








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